第95話 狩りの刻、静かなる氷と無粋な隼
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リフェルナのギルドで始まった、新鋭パーティ『銀翼の隼』との魔物狩り勝負。
ターゲットは、かつて討伐した『水底の蛇』の生き残りである小型個体二十体。
数に勝る若手たちが勢いよく飛び出していく一方で、クレアたちは自分たちのペースを崩しません。
果たして、本当の「実力」とは何なのか。
最弱パーティ、今日も(無駄な体力は使いたくないと思いながら)ちょっとだけ成長中!
リフェルナの郊外。
そこは、かつて大規模な浄化作業が行われた場所だったが、岩場の隙間からは今もなお、ねっとりとした負の魔力が染み出していた。
「……湿気がひどいね」
クレアが、愛剣の柄を握り直しながら呟く。
彼女の持つ『切ない剣』は、主の心に呼応するように、微かな湿り気を帯びた空気に震えていた。
足元の岩場には、『水底の蛇』の幼体が繁殖し始めている。
半透明の青白い体を持ったそれは、獲物を求めて不気味に蠢いていた。
「……ははっ! 見ろよ、あの『元』名誉保守官たちはまだ準備運動か? モタモタしてると、二十体全部俺たちが平らげちまうぞ!」
金髪のリーダー率いる『銀翼の隼』が、派手な光を放つ剣技を振り回しながら、次々と幼体へ突っ込んでいく。
若さゆえの爆発力。
確かに彼らの動きは速く、次々と魔物の首を撥ね、手柄を競い合っていた。
だが、その戦い方は、ただ獲物を追い散らしているだけのように見えた。
一方、リトル・リンクの面々は、戦場から少し離れた岩陰で円陣を組んでいた。
「……論理的に見て、……むやみに……走り回るのは……体力の……無駄遣いです。……魔力分布を……走査。……あそこの……窪みに、……十体以上の……反応が……留まっています」
セインが解析端末を淡々と叩き、眼鏡の奥で冷静な光を放つ。
『環境上書き』の術式を足元に展開し、目には見えない魔力の流れを可視化する。
彼女にとって、闇雲な捜索は、ただの「非効率な散歩」でしかなかった。
「ガッハッハ! そう急ぐことはないさね! ワシの洗浄砲とパチンコの出番を、しっかり作ってやるからよぉ!」
ケットルが、小さな体には不釣り合いな巨大な背負い袋を揺らしながら、豪快に笑った。
その外見こそ愛らしいドワーフの少女だが、口を開けば経験豊富な職人そのものの力強さがある。
彼女は手慣れた手つきで、特殊な洗浄液が詰まったタンクを洗浄砲に装填した。
「この弾をぶち込めば、魔物のヌメリも取れて一箇所に固まるってもんだ。職人の道具を舐めちゃいけないよ!」
「……あたい、……あの鳥たちの……動き、……見える。……一秒、……あれば、……全員……置いていける」
カノンが、『借金回避の双牙』を抜き、銀靴の紐を締め直した。
背中の羽をわずかに震わせ、最高速度で「静止」するためのタイミングを計る。
彼女にとって、勝負は単なる「速さ」ではなく、相手が最も隙を見せる「一瞬」を支配することだった。
「……ん。……うるさい……鳥、……邪魔。……お腹、……空いた。……早く、……終わらせる。……リトル・ガーネット・フロスト、……充填、……完了」
ミルが、『もう壊さない杖』の先端を窪地へと向けた。
かつては制御不能な魔力で周囲を破壊していた吸血鬼の少女。
だが今の彼女は、その絶大な力を、一点に凝縮させる術を身につけつつあった。
その時だった。
『銀翼の隼』が追い込んでいた三体の幼体が、彼らの大振りな剣技をすり抜け、予想外の方向へ逃走を図った。
それは、セインが予測した「窪地」へと合流し、巨大な一つの魔力塊へと変貌しようとしていた。
「……くそっ、逃げるな! おい、そこの女共! 邪魔だ、そこを退け!」
金髪のリーダーが叫ぶ。
魔物を追いかけることに必死な彼らには、周囲の状況が見えていなかった。
だが、クレアは一歩も引かなかった。
「……カノン、今!」
「……了解! ……一秒、……頂戴!」
銀色の閃光が走った。
カノンが虚空で「静止」したかのような動きを見せ、逃走しようとする魔物たちの進路を、文字通り物理的に封鎖した。
行き場を失い、恐怖で一箇所に固まった魔物たち。
「……逃がさないよ。ケットルさん!」
「任せな! 特製洗浄液、一丁上がりだぁ!」
ケットルの放った洗浄砲が、魔物たちの表面を覆う嫌な粘液を洗い流し、それらをひと塊の「的」へと変えた。
「……論理的に、……ここが……終着駅です」
セインが環境上書きの術式を収束させ、ミルの魔力を増幅するための「道」を作る。
「……ん。……ダイヤモンド、……砕ける。……リトル・ガーネット・フロスト、……全弾、……解放」
ミルの杖から放たれたのは、深紅の輝きを秘めながらも、周囲の熱をすべて奪い去る極低温の旋風。
『リトル・ガーネット・フロスト』。
それは、一瞬にして十数体の魔物を、美しくも残酷な氷像へと変えた。
水しぶきすらも、その形のまま空中で凍りついている。
一分の狂いもない、完璧な連携。
後から追いかけてきた『銀翼の隼』は、その冷たく輝く処刑場を前に、剣を構えたまま呆然と立ち尽くすしかなかった。
「……な、……なんだ……今の……。……俺たちの……攻撃が、……かすりもしなかった……?」
金髪のリーダーの震える声が、岩場に虚しく響く。
「……ふぅ。お疲れ様、みんな」
クレアが静かに剣を鞘に収める。
魔力を使い果たして少し眠そうなミルを、ケットルが豪快に笑いながら抱き上げた。
「ガッハッハ! 後の掃除は、あのアホ鳥たちに任せちまおうかね!」
リトル・リンク。
今日も(後輩たちのプライドを粉々に凍らせながら)、ほんのちょっとだけ、成長中。
第95話をお読みいただき、ありがとうございました。
勢いだけの若手パーティに対し、リトル・リンクが見せたのは、圧倒的な「連携」と「精密さ」でした。
カノンの一秒、セインの解析、ミルの氷結。
バラバラだった個性が一つの「暴力的なまでの効率」に昇華された瞬間です。
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