第89話 自由の朝、自動洗浄トイレは沈黙を破る
いつも応援ありがとうございます!
名誉保守官という重い肩書きを返上し、晴れてただの自由な冒険者に戻ったリトル・リンク。
身軽になった彼女たちを待っていたのは、領主公爵が「友人への贈り物」として拠点に運び込ませた最新設備の数々でした。
何の義務もない、清々しい新生活の第一歩!
……のはずが、カノンは人生最大の「奇襲」を受けることになります。
最弱パーティの、騒がしくも愛おしい日常が再び動き出します。
水都リフェルナの朝は、運河を流れる水の音と、物売りの活気ある声で幕を開ける。
名誉保守官という重い肩書きを返上し、ただの冒険者に戻ったクレアたちは、久しぶりに何の義務もない、清々しい目覚めを迎えていた。
拠点のバルコニーから眺める景色は、昨日までと同じはずなのに、どこか今までよりも鮮やかに見える。
「……ふぅ。……論理的に見て、……公式行事への出席義務が……なくなったことは、……私の精神衛生上……極めて合理的です。……これで、……魔導デバイスの研究に……没頭できます」
セインが、寝癖のついた髪を指で整えながら、魔導ブースターの最終調整に入っていた。
ハーフエルフの彼女にとって、形式張った公務は、演算能力の無駄遣いでしかなかったらしい。
「えへへ、あたいもこの家の工房、もっと弄りたかったんだ! 領主様、話がわかるね。最新の工作機まで付けてくれるなんてさ!」
階下の工房から、ケットルが顔を出して笑った。
ドワーフの可愛い女の子らしい明るい笑顔だが、その手には油汚れが光っている。
彼女は昨晩から、領主が運び込ませた数々の最新設備を、片っ端から拠点に組み込んでいたのだ。
そんな平和なリビングに、突如として「ガガガガッ!」という不穏な駆動音が響いた。
音の場所は、廊下の突き当たり――新設された最新式の個室だ。
「……ひ、ひぃぃっ!? な、何これ!? あたい、何もしてないのに……勝手に蓋が開いて……お水が……お水が飛んできたぁ!!」
廊下から飛び出してきたのは、顔を真っ赤にしたカノンだった。
斥候として死線を潜り抜けてきた彼女も、文明の利器による「背後からの急襲」には、一溜りもなかったらしい。
銀色のブーツを鳴らしながら、涙目でクレアの背後に隠れようとする。
「……カノン、……声、……大きい。……それは、……おもてなし。……最新の、……自動洗浄。……勝手に、……綺麗にしてくれる。……天国」
ミルが、いつものようにトースターで焼いた厚切りレバー入りのパンを齧りながら、無表情のまま呟いた。
吸血鬼の彼女は、意外にもこの最新設備を、誰よりも早く使いこなしているようだ。
彼女の『もう壊さない杖』は、今はリビングの壁に立てかけられ、主人の穏やかな食事を静かに見守っていた。
「……天国だなんて……。あたい、あんなの心臓が止まるかと思ったよ……。一秒静止を使う暇もなかった……」
カノンがソファに沈み込む。
借金取りから逃げ回っていた頃の彼女なら、間違いなく窓から飛び降りて逃走していただろう。
「……まあまあ。自由になったお祝いだよ。……さあ、朝ごはんを食べたら、これからの依頼を探しに行こうか。……もう公費は出ないんだから、自分たちで稼がないとね」
クレアが苦笑しながら、仲間たちに声をかけた。
名誉も地位もない。あるのは自分たちの家と、頼りになる仲間たちだけ。
けれど、その不自由な自由こそが、彼女たちにとって何よりの報酬だった。
「……あ、……でも、……最新トイレ、……注意。……カニの殻、……流しちゃダメ。……セイン、……言ってた。……論理的に、……壊れる」
ミルの不穏な予言に、セインが「……ミル、まさかもう何か流すつもりですか?」と眼鏡を光らせる。
「……まだ。……予定。……カルシウム、……大事。……いつか、……カニ、……食べる」
リトル・リンク、今日も(最新のトイレに翻弄されつつ)ちょっとだけ成長中。
第89話をお読みいただき、ありがとうございました。
自由の身に戻った最初の朝、彼女たちを待っていたのは「自動洗浄トイレ」という名の新兵器でした。
斥候のカノンですら感知できない「自動開閉」と「洗浄噴射」の恐怖……。
名誉保守官を辞めても、リトル・リンクの日常は相変わらず騒がしいようです。
そしてミルの「カニの殻」フラグ。
彼女の飽くなき食欲が、最新設備を崩壊させる日は近いのかもしれません(笑)。
「カノンの反応が不憫で可愛いw」「ミルのマイペースっぷりが最高」と思ってくださった方は、ぜひ下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして、応援いただけると励みになります!
次回、第90話。
自由になって最初の仕事探し!
街で出会ったのは、意外な人物……?
お楽しみに!




