第80話 飛べぬ羽の鼓動、一秒間の虚空静止
リフェルナを汚染する「魔力泥」との決戦。
逃げ場のない空中攻撃に対し、カノンが呼び覚ましたのは、悪魔族としての秘めたる力でした。
「飛べない羽」に宿った、空間を固定する一秒間の静止。
二段ジャンプと空中静止。
二つの機動力を手に入れたカノンが、最弱パーティの「盾」として、異次元の回避を見せつけます!
運河の底から噴き出した「魔力泥」の怪物が、その巨体をねじらせ、全方位へとどす黒い飛礫を放った。
「……ターゲット、全方位拡散攻撃! 論理的に見て、……回避面積が足りません! カノンさん、離脱して!」
セインの鋭い警告が、魔導通信を通じて響く。
だが、カノンはすでに『空歩の銀靴』で虚空を蹴り、泥の怪物の眼前に躍り出ていた。
「……逃げないよ! あたいがここで引いたら、……後ろの二人に当たっちゃうじゃん!」
回避タンクとしての矜持が、カノンの足を止めさせない。
だが、空中には足場がない。銀靴でもう一段跳ねたとしても、敵が放つ網目のような泥の弾幕をすべてかわし切ることは不可能だった。
(……あたいの羽が、……もし飛べる羽だったら……!)
カノンの背中にある、小さく、硬く、飛ぶことのできない悪魔の羽。
それは魔界にいた頃から、彼女にとって「半人前」の象徴であり、コンプレックスそのものだった。
迫り来る泥の弾幕が、カノンの視界を真っ黒に染め上げる。
「……動け、……あたいの羽!!」
その瞬間、カノンの背中で、これまで一度も羽ばたいたことのない羽が、黄金の回路の魔力を吸い込んで激しく脈動した。
バサァッ!!
漆黒の羽が、力強く見開かれる。
それは空を飛ぶための羽ばたきではない。周囲の空間を強引に掴み、固定するための「楔」としての鼓動。
カノンの身体が、空中でピタリと止まった。
重力も、慣性も、すべてを無視して虚空に釘付けにされたような、奇妙な「一秒間」。
シュッ、シュシュッ!!
泥の弾幕が、静止したカノンの数ミリ横を、虚しく通り抜けていく。
わずか一秒。瞬きほどの時間だが、その静止は、カノンに敵の攻撃を見切るための「絶対的な隙」を与えた。
「……えっ? 今、……止まった……?」
「論理的に、……ありえません! 慣性を……完全に殺したというのですか!? ……ですが、今です! カノンさんが作った一秒を無駄にしないで!」
セインの叫びに応え、下方の屋根で待機していたクレアが跳躍する。
「……回避の次は、……静止! ……カノン、最高にかっこいいよ!」
クレアの『切ない剣』が、一秒の静止から復帰し、落下に転じたカノンの足場を借りるようにして、さらに高く舞い上がる。
銀光一閃。
泥の怪物の「核」が真っ二つに裂け、ケットルの洗浄砲が、その残骸をリフェルナの運河へと押し流した。
着地したカノンは、肩で息をしながら、自分の背中をそっと振り返った。
羽はまた、いつものように小さく折り畳まれている。
けれど、その感触は、今までの「飛べない重荷」とは、明らかに違っていた。
「……一秒だけ。……あはは、……あたい、……一秒だけなら、……空を支配できるみたい」
リトル・リンク、今日も(コンプレックスを武器に変えて)ちょっとだけ成長中。
第81話をお読みいただき、本当にありがとうございました!
カノンの羽の設定、修正いたしました!
「飛べない」という弱点が、靴と組み合わさることで「一秒だけ止まれる」という強力な個性に変わる……。
これぞ、リトル・リンクらしい「工夫と根性の成長」ですね。
回避タンクとして、ますます頼もしくなったカノンを、これからも応援してください。
「カノンの一秒の静止、熱い!」「コンプレックスを力にする姿に感動!」と思ってくださった方は、ぜひ下の**【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】**にして、評価をいただけますと幸いです!
皆さまの「星」が、カノンの羽に新しい魔力を宿し、リトル・リンクの次なる快進撃を支える光になります。
引き続き、応援よろしくお願いいたします!




