第79話 名誉保守官の朝、魔力泥の残滓
名誉保守官として、新しい生活を始めたリトル・リンク。
記念すべき初仕事は、運河に発生した謎の「魔力泥」の調査でした。
誰にも破れないはずのセインの管理をかいくぐり、街の魔力を汚染して持ち去る未知の術式。
そして、その泥から生まれる不気味な影の怪物。
新装備『空歩の銀靴』を手に入れたカノンが、空中で敵を翻弄し、パーティの盾となる「回避タンク」としての真価を再び発揮します!
リフェルナの朝は、新拠点のキッチンから漂う香ばしいパンの匂いと共に始まった。
だが、その穏やかな空気を切り裂いたのは、一階の受付に設置された魔導ベルのけたたましい音だった。
「ガハハ! 朝っぱらから景気がいいねえ! ……さあ、誰だい、あたいらの新居に一番乗りで助けを求めてきたのは!」
ケットルが、まだ寝癖のついた頭を掻きながら、玄関の自動ドアを開ける。
そこに立っていたのは、顔を青ざめさせた運河ギルドの若者だった。
「リ、リトル・リンクのみなさん! 助けてください! ……今朝、運河の底に溜まっていたはずの『沈殿魔力』が、ごっそり盗まれたんです!」
リビングのソファで、昨日使い込んだ銀色のブーツを丁寧に磨いていたカノンが、耳をピクリと動かした。
「……魔力の盗難? そんなこと、できるわけないじゃん。……あたいらのセインが管理してる街の循環系から、勝手に魔力を抜くなんてさ」
「論理的に見て、……不可能です。……リフェルナの魔力供給は、私の『広域環境上書き』によって二重のプロトコルで保護されています。……外部からの物理的な接触による抽出は、……アラートが出るはずです」
セインが、朝のハーブティーを置き、メインモニターに街の魔力分布図を投影した。
そこには、昨夜の浮遊泥棒の騒動とは別の、奇妙な「穴」が空いたような欠損箇所が点在していた。
「……気持ち悪い、……色。……ドロドロして、……影が、……腐ってる」
ミルがモニターを指差す。吸血鬼の彼女には、その魔力の欠損部から漂う「不浄な残滓」が、視覚的に捉えられていた。
魔力そのものを盗むのではなく、魔力を「汚染」して、その性質を書き換えて持ち去る――。
「……名誉保守官としての、本格的な依頼だね。……みんな、準備はいい?」
クレアが、研ぎ澄まされた『切ない剣』を腰に差した。
五人は新拠点を出て、被害のあった運河沿いへと急いだ。
現場には、本来なら透明なはずの魔力の溜まり場が、どす黒い「泥」のような物質に覆われていた。
それは、周囲の石畳や建物の魔力をじわじわと吸い込み、肥大化しているように見える。
「……うわっ、……これ、……あたいが空中で蹴った時の魔力と、……波長が、……全然違う。……重たくて、……粘ついてる……」
カノンが、新装備の銀靴で軽く空を蹴り、高度を変えて「泥」を観察する。
回避タンクとしての勘が、その泥から放たれる「全方位への悪意」を察知していた。
「論理的に、……これは単なる盗難ではありません。……街の循環系に対する『ウイルスの注入』です。……ケットル、……あれを!」
「合点承知! ……あたいの洗浄砲、……魔力泥ごと、……全部消し飛ばしてやるよ!」
ケットルが洗浄砲を構えた瞬間、どす黒い泥の中から、人の形をした異形の「影」が這い出してきた。
それは、街の人々の不安を吸い取ったかのような、不気味な鳴き声を上げる。
「……カノン! ……あいつ、……こっち、……見てる。……引きつけて!」
「……了解! ……一歩で回避、……一瞬でソッコウ! ……行くよ!」
カノンが銀靴を鳴らし、虚空を蹴って泥の怪物の背後へと回る。
リトル・リンク、名誉保守官としての初任務。
それは、水都の平和を根底から腐らせる、未知の敵との戦いだった。
リトル・リンク、今日も(街の汚れを、五人の絆で洗い流して)ちょっとだけ成長中。
第79話をお読みいただき、本当にありがとうございました!
今回は、街の平和を守る「名誉保守官」としての初任務回です。
セインの論理をも超える謎の「魔力泥」の出現に、リトル・リンクはどう立ち向かうのか。
回避タンク兼ソッコウ役として定着しつつあるカノンの、空中での軽やかな動きにも磨きがかかっています。
「魔力泥の正体が気になる!」「リトル・リンクの初仕事、頑張れ!」と思ってくださった方は、ぜひ下の**【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】**にして、評価をいただけますと幸いです!
皆さまの「星」が、セインの解析速度を上げ、ミルの魔力回復を助ける聖水になります。
引き続き、応援をよろしくお願いいたします!
次回、第80話。
泥の怪物との激突。
そして、その背後に透けて見える、さらなる巨大な影とは……?
お楽しみに!




