第74話 深紅の徴収人、カノンの秘められた「負債」
リフェルナ名誉保守官としての輝かしい新生活、そして新拠点の建設。
順風満帆に見えたリトル・リンクの前に現れたのは、カノンの過去を知る悪魔族の徴収人・ゼウスでした。
カノンがひた隠しにしてきた「借金回避」の真の理由。
それは、一族の魂を縛る呪われた契約書を巡る、命懸けの逃亡劇だったのです。
仲間を救うため、そして自分たちの「城」を守るため、五人は魔界の冷徹なルールに立ち向かいます!
リフェルナの空に、新しい拠点となる建材を運ぶ大型の昇降機が、重厚な音を立てて往来していた。
「ガハハ! 見なよ、この最高級の『防魔煉瓦』! 街の議会が予算を出してくれたおかげで、あたいの洗浄砲を全開でぶっ放してもびくともしない壁が作れるぜ!」
ケットルが、ガレキの山の上で豪快に笑い、図面と現実を照らし合わせていた。ドワーフの小柄な体は、すでに建築資材の熱気と油の匂いに包まれている。
「論理的に見て、資材の搬入効率は現時点で最高値を記録しています。……ですが、一つだけ計算外の事象が発生しました」
セインが、新調した眼鏡のブリッジを押し上げ、視線を運河の対岸へと向けた。
そこには、華やかな水都の風景には不釣り合いな、血のように赤いマントを纏った一人の男が立ち尽くしていた。
「……あいつ、……悪い、……匂い。……血と、……古い、……紙の、……腐った、……匂い」
ミルが、ミントの葉を噛み砕きながら、本能的な嫌悪感を露わにする。吸血鬼の彼女にとって、その男から漂う気配は、かつて同族たちが持っていた「執着」そのものだった。
その時、資材の検品をしていたカノンの動きが、目に見えて硬直した。
「……嘘、でしょ。……なんで、ここに……」
悪魔族特有の尖った耳が、不安げに小刻みに震える。彼女の『借金回避の双牙』が、鞘の中でカチリと音を立てた。
「お久しぶりですね、カノン。……いえ、『裏切りの第十三債務者』と呼ぶべきでしょうか」
赤いマントの男が、音もなく運河を飛び越え、リトル・リンクの建設現場へと降り立った。
男の額には、カノンと同じ悪魔族の角があったが、その色は禍々しい漆黒に染まっている。
「……ゼウス。……あんた、まだあたいを追ってたの?」
カノンの声が、いつもの軽快さを失い、沈み込むように響く。
「追う? いいえ、これは正当な『取立て』ですよ。……あなたが故郷の魔界銀行から持ち逃げした、あの『深紅の契約書』……。利息を合わせれば、今やこのリフェルナの街を三つ買ってもお釣りが来る額になっています」
「な、何言ってるのさ! あれはあたいが勝手に背負わされた、不当な借金でしょ!」
カノンが叫ぶ。だが、ゼウスと呼ばれた男は、冷酷な笑みを浮かべて懐から一枚の古びた羊皮紙を取り出した。
その紙から放たれる圧倒的な魔力の重圧に、クレアが思わず剣の柄を握りしめた。
「……カノン、どういうこと? その人、知り合いなの?」
「……ごめん、クレア。……あたい、みんなには内緒にしてたんだけど……。……実は、あたいが『借金回避』を職業にしてるのは、単なる貧乏だからじゃないんだ……」
カノンが悪魔族の里を追われた理由。それは、一族が代々守ってきた「呪われた負債」を押し付けられ、その契約書ごと人間界へと逃げ出したからだった。
「論理的に見て、その契約書の魔力波形は、カノンさんの生命力と直結しています。……もし無理やり徴収されれば、カノンさんの魂は……」
セインの言葉を遮るように、ゼウスが指先を弾いた。
瞬間、建設途中の防魔煉瓦が、黒い炎に包まれて溶解し始める。
「返していただきましょうか。……金で払えないのであれば、その『古代回路』と、この新しい『城』の全権利を……代物弁済としてね」
「……ふざけないで。……うちらの仲間から、……何も、……奪わせない」
ミルが杖を突き出し、紅い魔力を練り上げる。
新拠点の完成を目前にして、リトル・リンクに迫る「過去」からの徴収人。
カノンの隠された秘密が、五人の絆を再び試そうとしていた。
リトル・リンク、今日も(過去の借金と、仲間のために)ちょっとだけ成長中。
第74話をお読みいただき、ありがとうございます!
カノン編、突入です!
「借金回避」というコミカルな設定の裏に隠された、悪魔族としての重い宿命。
新拠点を人質に取られたも同然のこの状況、リトル・リンクはどう切り抜けるのでしょうか。
セインの「論理的」な借金整理(?)にも期待がかかります。
「カノンを助けてあげて!」「ゼウス、嫌な奴だけど強い!」と思ってくださった方は、ぜひ下の**【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】**にして、応援いただけますと幸いです!
皆さまの星が、カノンの返済資金(またはゼウスを追い払う魔力)に変わります!
次回、第75話。
セインの『契約上書き』。
そして、カノンが放つ、借金回避の真の奥義。
引き続き、応援よろしくお願いいたします!




