第73話 再建の槌音、遺された設計図
激闘の果てに、かつての拠点は跡形もなく消え去りました。
しかし、リトル・リンクの五人に立ち止まっている暇はありません。
マーガレットから手渡された師匠の「遺産」――それは、想像を絶する家の設計図でした。
自爆したことで剥き出しになった地下の魔力線。
失ったことで手に入れた、新しい可能性。
リフェルナの名誉保守官となった彼女たちの、真の「拠点づくり」が始まります。
リフェルナの運河沿い。かつて『魔道具師の家』があった場所には、今や黒い焦げ跡と、セインが凍りつかせた魔力の残滓だけが静かに横たわっていた。
だが、そこには絶望の沈黙はない。
「ガハハ! 見なよ、この地盤! あたいの自爆スイッチが完璧だったおかげで、地下の魔力パイプは一本も傷ついてないぜ!」
ケットルが、巨大な背負い袋から取り出した測量計を手に、ガレキの山を軽快に跳ね回っていた。ドワーフの瞳は、失った悲しみよりも、これから作り上げる「新しい城」への野心で爛々と輝いている。
「……論理的に見て、地盤の安定性は八十五パーセント。……ですが、以前の構造をそのまま再現するだけでは、……戦略的な柔軟性に欠けます。……地下の魔力貯蔵庫、……容量を三倍に拡張し、私の魔導ブースターとの直結を前提とした設計を提案します」
セインが、パウロから譲り受けた新しい眼鏡を指で押し上げ、手元の羊皮紙に素早く図面を引き直していく。ハーフエルフの計算力は、今や一軒の家を越え、街の循環系との効率的な接続までを見据えていた。
「……セイン、……お風呂、……広くして。……あと、……トイレ、……最新型。……勝手に、……開く、……やつ」
ミルがガレキの上に腰掛け、ミントを齧りながら呟いた。吸血鬼の彼女にとって、拠点の清潔さはそのまま魔力の回復速度に直結する。
「借金回避……じゃなくて、資産運用だね! 名誉保守官の手当があれば、防犯用の魔導センサーも特注品が買えるよ!」
カノンが悪魔族の俊敏さで、周囲の立ち入り禁止区域を整理しながら笑う。彼女の『借金回避の双牙』は、今は戦うためではなく、新しい未来を切り拓くための「守りの牙」として腰に収まっていた。
「……みんな、ちょっと待って」
クレアが、仲間たちを呼び止めた。
その手には、先ほどマーガレットから手渡されたばかりの、古びた金属の筒が握られていた。
「マーガレットさんが言ってたの。……『師匠があの家を作った時、いつかお前たちがそれを壊す日が来ることを、半分だけ願っていたのかもしれない』って」
クレアが筒の封を切り、中の羊皮紙を広げた。
そこには、かつての師匠の無骨な筆致で、驚くべき「真実」が記されていた。
それは単なる家の設計図ではない。
『古代回路』を核として、家そのものを一つの「巨大な魔導武装」として機能させるための、禁忌の、けれどあまりに美しい拡張設計図だった。
「……な、なんだい、これは! ……あたいらの師匠、……とんでもない『大馬鹿』だったんだね!」
図面を覗き込んだケットルが、驚愕のあまり声を裏返らせた。
「論理的に……、……ありえません。……家全体を、……巨大な魔力増幅器にするというのですか? ……これがあれば、私の『環境上書き』は、リフェルナどころか……」
「……リトル・リンク。……成長の、……限界、……超える」
ミルが、図面の一角に記された「もう壊さない杖」の真の連動術式を見て、小さな舌を出した。
「……うちらは、まだ最弱かもしれない。……家を失って、やっとスタートラインに立ったばかり。……でも、……この新しい『城』が完成した時、うちらは本当の『リトル・リンク』になれる気がするんだ」
クレアが、焦げた大地の感触を足の裏に感じながら、青い空を見上げた。
カン、コン、とケットルが鳴らした槌の音が、リフェルナの朝空に高く響き渡る。
それは、失ったものへの鎮魂歌ではなく、新しく始まる黄金の日々へのファンファーレだった。
リトル・リンク、今日も(最高の城の再建を目指して)ちょっとだけ成長中。
第73話をお読みいただき、ありがとうございます!
ついに新拠点の建築が始まりました!
師匠が遺した「家そのものを武装化する」という規格外の発想。
セインの知略、ケットルの技術、そして五人の絆が、どんな「城」を作り上げるのか……。
自動洗浄トイレのアップグレード(?)にも期待が高まります。
「リトル・リンクの新しい城が見たい!」「セインの設計、凝りすぎ(笑)」と思ってくださった方は、ぜひ下の**【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】**にして、応援いただけますと幸いです!
皆さまの星が、新拠点の建築資材(高級な魔晶石)に変わります!
次回、第74話。
建築資材の調達……のはずが、思わぬトラブル発生?
そして、カノンの過去を知る「もう一人の悪魔族」が現れます。
引き続き、応援よろしくお願いいたします!




