第72話 暁の石畳、再起の鐘は鳴り響く
激闘の夜が明け、水都リフェルナに平和な朝が訪れます。
街を救った五人を待っていたのは、追放や嘲笑ではなく、温かな感謝の眼差しでした。
自警団の悪政は終わり、彼女たちには「拠点の再建」という新たな希望が与えられます。
ゼロから、いやマイナスから始まった彼女たちの物語。
灰の中から立ち上がる、リトル・リンクの新しい日々がここから始まります。
リフェルナの東の空が、群青色から柔らかな薄紅色へと溶け始めていた。
夜通し荒れ狂っていた運河の濁流は嘘のように凪ぎ、街には朝靄と共に、どこか清々しい沈黙が漂っている。
石造りの塔の最上階。
セインは、割れた眼鏡を傍らに置き、窓枠に背中を預けて深く息を吐き出した。
「……論理的に見て、リフェルナの全機能、正常化を確認。……街の魔力貯蔵量も、……危険水域を脱しました」
ハーフエルフの白い頬には、魔力の酷使による疲労の色が濃い。だが、その瞳には、計算だけでは導き出せなかった「奇跡」への充足感が微かに宿っていた。
「……セイン、……お疲れ。……スープ、……冷めた。……また、……作ってもらう」
ミルが、セインの肩に頭を乗せて微睡んでいる。吸血鬼の呪われた飢えも、今は仲間のぬくもりによって静かに凪いでいた。
「ガハハ! 見たかよ、あたいの洗浄砲の底力を! ……街中の呪いを、一滴残らず洗い流してやったぜ!」
ケットルが、煤だらけの顔で破顔する。彼女の傍らには、全ての力を出し切り、今は静かに眠る黄金の『古代回路』が置かれていた。
「……ねえ、見て。みんなが、出てきたよ」
カノンが悪魔族の鋭い視力で、階下の通りを指差した。
扉を固く閉ざしていた住民たちが、一人、また一人と窓を開け、石畳へと足を踏み出している。
彼らの瞳に映るのは、破壊された街ではなく、浄化され、朝日にキラキラと輝く美しい水都の姿だった。
「……行こう。うちらも、この街の一部なんだもん」
クレアが、ボロボロになった『切ない剣』を背負い直し、仲間たちに手を差し伸べた。
塔を降り、表通りに出た五人を待っていたのは、割れんばかりの歓声……ではなかった。
そこにあったのは、戸惑いと、そして深い「感謝」を湛えた静かな眼差しだった。
「……あんたたちが、……街を救ってくれたんだね」
一人の老人が、震える手で五人にパンを差し出した。
それを合図にしたかのように、街の人々が集まってくる。
ある者は泥を払い、ある者は怪我を案じ、ある者はただ黙って頭を下げた。
「最弱パーティ」と呼ばれ、拠点を失い、自警団に追われていた彼女たちが、今、この街の「恩人」として迎えられていた。
「……あ、あの! リトル・リンクのみなさん!」
人混みを掻き分けて現れたのは、ずぶ濡れのパウロと、そして銀色の鎧を纏ったエドワードだった。
「……エドワードさん。……自警団は、……どうなったの?」
クレアの問いに、エドワードは苦笑いを浮かべ、懐から一通の公文書を取り出した。
「バザルは、グレイとの癒着と禁忌魔導の使用容疑で、ギルド本部の直轄部隊に拘束された。……そして、リフェルナの議会から、お前たちへの『伝言』を預かっている」
エドワードが読み上げたのは、五人の全罪状の破棄、および――。
「……『旧・魔道具師の家』の跡地、およびその再建に関する全権利を、リトル・リンクに譲渡する。……さらに、街の『名誉保守官』としての地位を授与する、だとさ」
「ガハハ! 再建だって!? ……ってことは、またあたいらの城を作れるのかい!?」
ケットルが飛び上がって喜ぶ。カノンも「これで借金どころか、一生安泰じゃん!」とはしゃぎ、ミルは「……トイレ、……また、……自動で、……洗う?」と首を傾げた。
「論理的に見て、非常に高待遇です。……ですが、再建コストを計算すると、……街のバックアップが不可欠ですね」
セインが、パウロから手渡された予備の眼鏡をかけ、不敵に笑った。
朝日は今、リフェルナの街を黄金色に染め上げている。
拠点は失った。けれど、彼女たちはそれ以上に強固な「絆」と、街の人々の「信頼」という、最高の土台を手に入れたのだ。
リトル・リンク、今日も(新しい家の設計図を、胸に抱いて)ちょっとだけ成長中。
第72話をお読みいただき、ありがとうございます!
長かった「リフェルナ編」も、ひとつの大きな区切りを迎えました。
拠点を自爆させるという衝撃的な展開から、街全体を救う英雄へ。
五人がボロボロになりながらも、最後には笑ってパンを食べる姿を描けて、私も感無量です。
「リトル・リンクの新しい家が楽しみ!」「本当にお疲れ様!」と思ってくださった方は、ぜひ下の**【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】**にして、評価をいただけますと幸いです!
皆さまの星が、新しい拠点の「自動洗浄トイレ」の最新型モデルになります!
次回、第73話。
新拠点、建築開始!
そして、マーガレットから手渡される「師匠の本当の遺産」。
引き続き、応援よろしくお願いいたします!




