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最弱パーティ、今日もちょっとだけ成長中  作者: beck2026


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第66話 星空の露宿と、鉄錆の再会

リフェルナの街を揺るがした拠点の自爆、そして宿敵『紫煙の牙』との死闘。

すべてを失い、ボロボロになりながらも黄金の『古代回路』だけは守り抜いたリトル・リンクの五人。

帰る場所をなくし、冷たい夜風にさらされる彼女たちの前に現れたのは、意外な人物たちの影でした。

絶望の淵で交差する、かつての隣人と、かつての敵。

リフェルナの夜風は、拠点を失った五人の肌に、これまでになく冷たく突き刺さった。

 運河のせせらぎは、数時間前まで自分たちの笑い声が響いていた『魔道具師の家』の残骸を嘲笑うかのように、淡々と夜の闇を流れていく。

「……はは、本当に燃えちゃったね。うちらの、お城」

 クレアが、煤で汚れた頬を拭いながら、遠く立ち上る煙を見つめて呟いた。

 その手には、かつてないほどボロボロになった『切ない剣』が握られている。

「論理的に見て、感傷に浸る時間はあと百二十秒が限界です。……詰所の爆発音を聞きつけ、自警団の増援がこちらに向かっています。……この路地裏も、長くは持ちません」

 セインが、ひびの入った眼鏡を指先で押し上げ、冷静に告げた。

 彼女の背負う魔導ブースターからは、過負荷による熱気が陽炎のように立ち上っている。

 ハーフエルフ特有の鋭敏な魔力感知で、彼女は街の遠くから近づく軍靴の響きを、正確にカウントしていた。

「……セイン、……冷たい。……お腹、……空いた」

 ミルがセインのローブの裾を力なく掴む。

 吸血鬼である彼女にとって、過度な魔力行使の後は、激しい飢えと疲労が襲う。

 その瞳は、いつもの爛々とした輝きを失い、深い影を落としていた。

「ガハハ! 弱音を吐くんじゃないよ、ミル。……見てな、あたいらの『未来』は、ここにあるんだからさ!」

 ケットルが、巨大な背負い袋から大切そうに布に包まれた黄金の『古代回路』を取り出した。

 それは、爆発と煙の戦いを経てもなお、鈍い、けれど力強い光を放っている。

 ドワーフの太い指が、愛おしそうにその表面をなぞった。

「……でもさ、これを持ってどこへ行くの? 街中の宿屋は、きっともう自警団の手が回ってるよ」

 カノンが、悪魔族特有の尖った耳をピクリと動かし、周囲の気配を警戒しながら言った。

 彼女の『借金回避の双牙』は、鞘に収まってはいるものの、いつでも抜き放てるよう、その指は常に柄に添えられたままだ。

 五人は、あてもなくリフェルナの裏通りを歩き始めた。

 ようやく掴み取った安住の地。それを自らの手で破壊した喪失感は、想像以上に彼女たちの足を重くしていた。

「……誰か、来る」

 カノンが制止の声を上げ、全員が湿った建物の影に身を潜めた。

 カツ、カツ、と重厚な金属音が、静まり返った石畳に響く。

 現れたのは、銀色の鎧を纏った一人の男。

「……エドワードさん」

 クレアが小さく声を漏らした。

 敵対する『轟雷の牙』の副官でありながら、密かにメモを届け、逃走を助けてくれた男だ。

 エドワードは、無言で彼女たちの前に立つと、深く兜の奥の瞳を伏せた。

「……無茶をしたな、リトル・リンク。拠点を爆破するなど、正気の沙汰ではない」

「……論理的な帰結です。……悪意に屈するくらいなら、無に帰す。……それが私たちの選択でした」

 セインが真っ直ぐにエドワードを見据える。

 ハーフエルフの瞳が、暗闇の中で青白く光った。

「……分かっている。だからこそ、私はここに来た」

 エドワードが指差したのは、運河のさらに先、街の外れにある古い倉庫街の一角だった。

「シルヴィアは怒り狂っている。自警団のバザルも、メンツを潰されて血眼だ。……今のお前たちが、まともに街の宿に泊まれると思うな」

「……じゃあ、どうしろって言うのさ」

 ケットルが不機謙そうに鼻を鳴らす。

「……あの方のところへ行け。……あの方は、お前たちの戦いを見ていた」

 エドワードの案内に従い、五人が辿り着いたのは、蔦に覆われた古い石造りの塔だった。

 リフェルナの華やかな運河沿いとは対照的な、忘れ去られたような静寂が支配する場所。

 その扉が開いた瞬間、温かなハーブの香りと、パチパチと爆ぜる暖炉の音が五人を包み込んだ。

「……あらあら、随分と派手なお引越しをしてきたわね」

 そこに立っていたのは、日傘こそ持っていないが、上品な刺繍の入ったローブを纏った一人の老婦人だった。

「……マーガレットさん!?」

 クレアが驚愕の声を上げる。

 近所のお節介な隣人だと思っていた彼女が、なぜこんな場所にいるのか。

「……論理的な矛盾を感じます。……ここは、……街の防衛結界の、古い中継点のはず」

 セインが周囲を見渡し、その「構造解析」の結果に目を見開いた。

「ふふ、セインさんは相変わらず鋭いわね。……ここはね、引退した魔道具師たちが最後に身を寄せる『隠れ家』なのよ。……あなたたちが爆破したあの家の、本来の主たちが守ってきた場所」

 マーガレットさんは、優しく微笑むと、疲弊したミルの頭をそっと撫でた。

「……お腹、空いたでしょう? 特製のレバースープができているわ。……今夜はここで、羽を休めなさい」

 温かなスープを啜りながら、五人はようやく一息ついた。

 窓の外には、満天の星空が広がっている。

 拠点は失った。貯金も底をついた。自動洗浄トイレさえ、もうそこにはない。

 けれど、セインの『魔導ブースター』はまだ健在で、カノンの『双牙』は鋭さを増し、ケットルの守り抜いた『古代回路』はここにある。

「……うちら、これからどうしようか」

 クレアの問いに、セインが空になった木皿を置き、眼鏡を拭き直した。

「論理的に見て、リトル・リンクの再起プランは三段階に分かれます。……第一に、この塔を新たな暫定拠点とすること。……第二に、マーガレットさんから『古代回路』の真の使い方を学ぶこと。……および第三に……」

 セインの瞳が、軍師としての鋭さを取り戻す。

「……私たちの『城』を汚した奴らに、きっちりと清掃代を請求することです」

「ガハハ! いいじゃないか、それ! あたいの洗浄砲、もっとデカいのに作り直してやるよ!」

「……スープ、……おかわり。……次は、……肉、……いっぱい」

 ミルの言葉に、どんよりとしていた空気が一気に晴れる。

 カノンも、双牙をテーブルに置き、ようやく汚れたマントを脱いだ。

「……まあ、なんとかなるよね。……うちら、リトル・リンクなんだし」

 クレアが仲間たちの顔を見回す。

 絶望の淵に立たされてもなお、彼女たちの心は折れていなかった。

 

 夜の帳の中で、五人の影が暖炉の火に揺れる。

 失った家よりも、もっと強固な絆という名の『城』が、そこには築かれつつあった。

 リトル・リンク、今日も(灰の中から立ち上がる、新たな夜明けに向けて)ちょっとだけ成長中。

第66話をお読みいただき、本当にありがとうございました!

拠点を爆破し、すべてを失ったかのように見えたリトル・リンクでしたが、エドワードの密かな協力とマーガレットさんの隠された正体によって、再起の物語が幕を開けました。

灰の中から立ち上がる五人の絆と、これからの大逆転劇を「応援したい!」と思ってくださった方は、ぜひ下の**【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】**にして、評価をいただけますと幸いです!

皆さまの星のひとつひとつが、執筆の何よりの原動力になります。

次回、第67話。

マーガレットさんが語る『魔道具師の家』の真実、および古代回路に秘められた真の力が明らかになります。

引き続き、リトル・リンクの成長を見守っていたいただければ嬉しいです!

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