第65話 魔力煙の檻、決死のオーバーフロー
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グレイの操る「魔力煙」に対し、リトル・リンクが選んだのは、環境そのものを書き換える「超高圧洗浄」。
「気体」を「液体」で制圧するセインの理論と、ミルの精密制御が炸裂します。
奪われた古代回路を取り戻し、追い詰められた五人が見せる反撃の結末をお楽しみください!
自警団詰所、最上階の執務室。
本来なら街の治安を守るべきその場所は、今や「紫煙の牙」の幹部・グレイが放つ禍々しい紫色の煙に満たされていた。
「……ゲホッ、ゲホッ! なにこれ、息が……魔力が、吸い取られるみたい……」
クレアが剣を構えたまま膝をつきそうになる。
室内に充満する紫煙は、吸い込むだけで体内の魔力バランスを乱し、精神を削り取る毒霧と化していた。
「無駄な足掻きだ。この『紫煙の檻』の中では、お前たちの魔法も、その錆びついた剣も、すべて私の霧に呑み込まれる」
グレイはソファに深く腰掛けたまま、退屈そうに指先を弾く。
すると、凝縮された煙が鋭い針のように形を変え、四方八方から五人を襲った。
「カノン、左! ミル、防壁を!」
セインの鋭い指示が飛ぶ。
カノンが持ち前の瞬発力で煙の針を紙一重で回避し、ミルが杖を振るって自分たちの周囲にだけ最小限の浄化結界を張る。
「……セイン、……この煙、……意思が、……ある。……弾いても、……すぐ、……戻ってくる」
ミルの言う通り、切り裂いたはずの煙はすぐに元通りになり、執拗に彼女たちの足首を絡め取ろうと蠢いていた。
「論理的に見て、この煙はグレイの魔力によって半自律型に制御されています。……つまり、部屋全体の『環境』そのものが奴の武器だ。……ならば、その環境をこちらで上書きするしかありません」
セインが眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせ、背負っていた魔導ブースターのスイッチを入れた。
「……ケットル! 洗浄砲の出力、最大稼働まであと何秒ですか!」
「ガハハ! あたいを誰だと思ってるんだい! さっきから地下の配管から直接水を引っ張り込んでるよ! ……いつでもいける、全開だ!」
ケットルが背負った特大タンクから、重低音の駆動音が響く。
彼女の洗浄砲は今、自警団詰所の給水システムを強引にハッキングし、魔力的に増幅された「重水」を生成し続けていた。
「よし……ミル、同調を! グレイの煙が『気体』なら、こちらはそれを上回る密度と質量を持った『液体』で制圧します!」
「……了解。……重く、……冷たく、……すべてを、……押し流す」
ミルの詠唱と共に、ケットルの洗浄砲から放たれた水流が、室内で渦を巻き始めた。
ただの水ではない。セインの計算に基づき、煙の粒子に吸着するように魔力性質を変化させた特殊な洗浄液だ。
「何っ……!? 私の霧が、重くなって……落ちていくだと?」
余裕の笑みを浮かべていたグレイの顔が、初めて驚愕に染まった。
室内に撒かれた水流が紫煙を吸着し、ヘドロのような粘り気を持って床へと叩きつけられていく。
視界を奪っていた煙が晴れ、グレイの姿が剥き出しになった。
「今よ、クレア!!」
カノンの叫びを合図に、クレアが地を蹴った。
霧が消えた空間は、もはやグレイの独壇場ではない。
「……うりゃあああ!!」
クレアの『切ない剣』が、魔力の閃光を纏ってグレイの喉元へと突き進む。
グレイは慌てて残った煙を集めて盾にしようとしたが、湿り気を帯びた煙はもはや以前のような反応速度を持ってはいなかった。
ギィィィィン!!
金属音が響き、グレイの目の前にあるテーブルが真っ二つに叩き割られた。
その衝撃で、灰皿代わりにされていた『古代回路』が宙に舞う。
「……あたいらの未来を、汚い手で触るんじゃないよ!!」
ケットルが洗浄砲の反動を利用して跳び上がり、空中で古代回路をがっしりとキャッチした。
「……回路、……確保。……セイン、……次は?」
「撤退です! 論理的に見て、この詰所全体の魔力バランスは崩壊寸前。……派手に散らすのは、拠点だけで十分でしょう!」
五人は崩れ落ちる紫煙を背に、窓ガラスを突き破って夜の街へと躍り出た。
背後で、グレイの怒号と詰所の崩落音が響き渡る。
リフェルナの闇の一端を確かに切り裂いた彼女たちの手には、今、温かな黄金色の回路が戻っていた。
「……はぁ、はぁ。……やったね、みんな!」
運河沿いの路地裏。
ボロボロになりながらも、クレアは仲間たちを見て笑った。
拠点は失った。全財産も、もうないに等しい。
けれど、自分たちの「誇り」と「相棒(回路)」は、今ここにある。
「……さて。……これから、……どこ、……泊まる?」
ミルの無垢な問いに、全員が顔を見合わせて苦笑いした。
リトル・リンク、今日も(一文無しからの、新たな再出発を前に)ちょっとだけ成長中。
第65話をお読みいただき、ありがとうございました。
グレイを退け、無事に古代回路を取り戻したリトル・リンク。
しかし、彼女たちには帰るべき「家」がもうありません。
失ったものは大きいですが、五人の絆はかつてないほど強固なものになりました。
もし「水流での制圧がカッコよかった!」「五人の再出発を応援したい!」と思っていただけましたら、下の**【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】**にして応援いただけると、本当に飛び上がるほど嬉しいです。
評価やブックマークが、私の執筆の原動力です!
次回、第66話。
行く当てのない五人の前に現れたのは、あのエドワードと……まさかの人物でした。
引き続き、応援よろしくお願いいたします!




