第64話 詰所の潜入、紫煙の男との対峙
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拠点自爆という衝撃の決断を経て、五人は自警団の詰所へと潜入します。
そこで待ち構えていたのは、リフェルナの裏社会を支配する男、グレイ。
奪われた古代回路を灰皿扱いする傲慢な敵に対し、リトル・リンクの怒りが爆発します。
逃げ場のない室内での、絶望的な奪還戦が始まります!
リフェルナの運河を滑る小舟の上で、五人は爆発の余韻が残る夜空を見上げていた。かつての拠点『魔道具師の家』から立ち上る魔力の燐光が、雨のように水面に降り注いでいる。
「……論理的に見て、自警団の主力は拠点の爆発現場へと急行しています。……今、詰所の警備は手薄。……奪還の勝率は六十八パーセントです」
セインが濡れた眼鏡を拭い、暗闇の中で冷静に告げる。その手元には、爆発の瞬間に計測した魔力反響の波形が記された羊皮紙が握られていた。
「……あいつ、……回路、……汚してる。……魔力、……不快。……すぐ、……行く」
ミルが小舟の縁を強く掴み、紅い瞳を詰所の方角へと向ける。彼女の超感覚は、自分たちが心血を注いで調整した古代回路が、何者かによって乱暴に扱われている不協和音を、痛いほどに感じ取っていた。
小舟が石造りの詰所の裏手に接岸する。カノンが音もなく飛び降りると、壁に張り付いて周囲の気配を探った。
「……見張りは二人。……でも、あいつら完全にパニくってる。……爆発の方を見てるよ。……今なら、通気口から入れる!」
カノンの先導で、五人は詰所の地下倉庫へと繋がる狭いダクトへと潜り込んだ。
中は埃っぽく、鉄と油の臭いが充満している。這い進む振動が、自分たちの鼓動のように響いた。
「ガハハ……! こんな汚いところを這いずり回るのは、前の街のゴミ捨て場以来だねぇ。……あたいらの回路、返してもらわなきゃ死んでも死にきれないよ!」
ケットルが背負った『洗浄砲』のタンクが、ダクトの壁に擦れて鈍い音を立てる。
やがて、五人は詰所の最上階――副隊長バザルの執務室へと続く通気口の格子に辿り着いた。
格子越しに室内を覗いた瞬間、クレアの身体が怒りで震えた。
部屋の中央、豪華な革張りのソファに深々と腰掛けているのは、バザルではない。
細い煙草を燻らせ、紫色の煙を吐き出している、あの「紫煙の男」だった。
彼の前のテーブルには、ケットルが命懸けで磨き上げた金色の古代回路が、灰皿代わりに置かれようとしていた。
「……ほう。拠点を自爆させるとはな。……ネズミにしては、なかなか派手な真似をしてくれる」
男が通気口の方を見向きもせずに呟いた。
最初から、気づかれていた。
「論理的に見て、待ち伏せですね。……ですが、逃げるという選択肢は既に切り捨てました」
セインの言葉を合図に、ケットルが格子を力任せに蹴り飛ばした。
ドォォン! という音と共に、五人が室内に躍り出る。
「……返しなさい。……それ、……うちらの、……命」
ミルが杖を突き出し、室内の酸素を一気に奪い去る。
だが、紫煙の男は動じない。彼は煙草の灰を古代回路の上に落とすと、薄気味悪い笑みを浮かべた。
「命、か。……職人のこだわりなど、俺たちの『紫煙の牙』にとっては、単なる金貨の代わりでしかないんだよ。……俺はグレイ。リフェルナの裏を掃除する者だ」
「掃除だって!? 笑わせるな! あんたがやってるのは、ただの略奪だ!」
クレアが『切ない剣』を抜き放ち、グレイへと肉薄する。
だが、グレイが指先を弾くと、部屋の中に立ち込めていた紫の煙が、生き物のように凝縮し、強固な壁となってクレアの剣を弾き返した。
「……物理的な衝撃を吸収する、魔力煙……!?」
「その通り。……お前たちの『洗浄砲』とやらも、この霧の中ではただの水鉄砲だ。……さて、拠点を失い、逃げ場を失ったネズミども。……死ぬ前に、その古代回路の使い方を、じっくりと教えてもらおうか」
グレイの背後から、影のように潜んでいた「紫煙の牙」の暗殺者たちが姿を現す。
閉ざされた執務室。
奪われた宝を目の前にして、リトル・リンクはかつてない窮地に立たされていた。
「……セイン、……あいつ、……煙、……操ってる。……でも、……水なら、……流せる?」
「論理的に見て、突破口は一点のみ。……ケットル、洗浄砲の全圧を、ミルの魔力に同調させなさい! ……室内の湿度を限界まで上げ、煙を重くするのです!」
「ガハハ! 合点承知だ! ……あたいの回路を汚したツケ、きっちり払ってもらうよ!」
奪還作戦は、今、最も激しい衝突へと突入しようとしていた。
リトル・リンク、今日も(誇りを取り戻すための、死地の中で)ちょっとだけ成長中。
第64話をお読みいただき、ありがとうございました。
ついに姿を現した敵の幹部、グレイ。
物理攻撃を無効化する「魔力煙」という厄介な能力を前に、五人はどう立ち向かうのか。
ミルの怒りと、セインの咄嗟の機転が、次回の反撃の鍵となります。
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次回、第65話。
室内に充満する霧と水。
視界ゼロの死闘の中、クレアの『切ない剣』がグレイの喉元に届くのか。
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