第63話 逆流の術式、深夜の「お引越し」
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
自警団と闇ギルドに包囲された五人が選んだのは、驚愕の「拠点自爆」という選択肢でした。
奪われるくらいなら、自分たちの手で終わらせる。
捨て身の反撃と、そこから始まる奪還作戦。
夜のリフェルナを揺るがす、彼女たちの決意の物語をお楽しみください!
深夜二時。運河のせせらぎさえも凍りつくような静寂の中、『魔道具師の家』の地下工房では、青白い魔力の奔流が渦巻いていた。
「……セイン、準備、……できた。……回路、……バイパス、……直結した」
ミルの細い指先から伸びた魔力糸が、地下の壁面に埋め込まれた巨大な魔力伝導路に絡みついている。本来、街の魔力網から供給を受けるための「入り口」であるはずのそこが、今はミルの精密な制御によって、逆に内部の魔力を外へと叩き出す「砲口」へと作り変えられていた。
「論理的に見て、過負荷による自爆まであと三百秒。……ケットル、洗浄砲の『逆流バルブ』は?」
「ガハハ! バッチリだよ! 吸い込むのは水だけじゃない、この家の地下に溜まった『暴走魔力』もまとめて吸い上げて、一気にブチまけてやる!」
ケットルが愛用の洗浄砲を背負い直し、不敵に笑う。その背後では、カノンが手際よく「これだけは捨てられない」という最低限の荷物を、ミルの遮光カーテンで作った特大の袋に詰め込んでいた。
「……ねえ、本当にやるの? この家、爆発しちゃうんでしょ?」
カノンの不安げな問いに、クレアが『切ない剣』の柄を強く握りしめて頷いた。
「……いいんだよ、カノン。……あいつらに、この『城』を汚されたまま渡すくらいなら……。うちらの手で、一番派手に片付けちゃおう!」
クレアの合図と共に、セインが最後の手順を完了させた。
ドォォォォン……!
地底から響くような重低音が、夜の静寂を切り裂いた。
表門で見張っていた自警団の兵士たちが、異常を察知して振り返る。だが、その瞬間にはもう遅かった。
「お掃除の時間だよ! くらえ、特製・魔力飽和水流!!」
二階の窓を突き破り、ケットルの洗浄砲から凄まじい勢いで「光る水」が噴射された。
それは単なる水ではない。地下の魔力バイパスから逆流させた、リフェルナの街の魔力そのものを燃料とした、物理と魔力の複合破壊奔流だ。
「な、なんだ!? 何が起きている!」
自警団の兵士たちが盾を構える間もなく、高圧の水流に叩き伏せられ、運河へと文字通り「洗浄」されていく。
「……今だ! みんな、裏口から船へ!」
混乱に乗じて、五人はパウロが教えてくれた裏口へと駆け出した。そこには、エドワードが手配した一艘の小舟が、月明かりの下で揺れている。
「……カノン、……荷物、……重い。……早く、……乗って」
ミルがふらつきながらも船に飛び込み、仲間たちを急かす。
その時、背後の『魔道具師の家』が、限界まで膨れ上がった魔力に耐えかねて真っ白な光に包まれた。
――ドォォォォォォォォン!!
リフェルナの夜空に、巨大な水の柱と魔力の火花が立ち上がる。
「紫煙の牙」が手に入れようとしていた、地下の魔力バイパスと拠点の設備。それらすべてを、リトル・リンクは「自爆」という名の清掃で、跡形もなく消し去ったのだ。
「……あはは。……本当に、やっちゃったね」
小舟の上で、遠ざかる燃える拠点を眺めながら、クレアが少しだけ寂しそうに笑った。
だが、その瞳に涙はなかった。
「論理的に見て、損失は甚大です。……ですが、奪われた『古代回路』の在り処は、爆発の瞬間の魔力反響で特定しました。……バザルの詰所、そこが次の戦場です」
セインが眼鏡の奥の鋭い瞳を光らせる。
奪われたままでは終わらない。
拠点を失い、文字通り「背水の陣」となった五人の反撃は、ここからが本番だった。
「ガハハ! 派手なお引越しだったじゃないか! ……さあ、あたいらの『未来』を取り返しに行くよ!」
闇夜の運河を、小さな舟が音もなく滑り出していく。
リトル・リンク、今日も(すべてを捨てて、誇りを取り戻すために)ちょっとだけ成長中。
第63話をお読みいただき、ありがとうございました。
思い出の詰まった『魔道具師の家』との別れ。
ですが、これは彼女たちが本当の意味で「自分たちの足で立つ」ための通過儀礼でもありました。
セインが特定した『古代回路』の居場所。次はいよいよ、敵の本陣への殴り込みです。
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次回、第64話。
自警団の詰所に潜入する五人。
そこで彼女たちを待っていたのは、奪われた回路を弄ぶ「紫煙の男」本人でした。
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