第214話 闇の古城の「換気」、淀んだ魔力と鳳凰のサーキュレーター
「……左様でございますか。……この汚れを……、この数世紀の『宿命』を……たった数分で……洗い流されるとは……」
洗い立ての儀式服を捧げ持つセバスの指先が、微かに震えていた。
吸血鬼の一族が数百年守り続けてきた古城「月蝕館」。そこは、外敵を拒む強力な結界の代償として、逃げ場を失った湿気と澱んだ魔力が、いまや「不潔の魔窟」と化していたのだ。
「……ふぅ。……じいや、……お鼻の……おく、……ツンとくる……一秒前。……ミル、……古城の……換気……不足……視る……一秒前。……あ、……そこ……。……玉座の……うしろ。……巨大な……クモの巣……、……魔力を……吸って……太ってる……三秒前」
ミルの実況。彼女が**『もう壊さない杖』**を掲げると、セバスが語る古城の惨状が、ホログラムのようにリビングに投影された。
「……ミルお嬢様。仰る通りでございます。……玉座の裏の『主』は、もはや掃除機程度では吸い取れぬほどに肥大化し……。……一族の者たちは、その……埃の重みに、……誇りまでもが……埋もれんとしているのでございます……」
「ガハハ! 冗談じゃないよ! 高貴な吸血鬼様たちが、そんなカビ臭い部屋でチェスに興じてるなんて、職人の名が廃るよ! ――セイン、四層の翠緑魔石を核にした『広域・魔力濾過ファン』の設計図を出しな!」
ケットルが、**『巨大背負い袋』**から「超軽量・高強度チタン合金」の羽根を取り出した。
「……こ、これは……? 伝説の……鳳凰の熱核……? ……まさか、城全体の空気を……一気に……!? ……あな恐ろしや……。……我が主(長老)は……、その風圧で……カツラが……飛ばぬか……心配……されるでしょう……」
セバスの困惑を余所に、ケットルは対吸血鬼用・全自動サーキュレーターをその場で組み上げ始めた。
「……論理的に見て、……月蝕館の……空気……循環率は……〇・〇三%……以下……です。……構造解析……。……っ、……地下の……棺桶……安置所……、……結露……による……腐食……寸前……! ……環境上書き……! ……古城の……空間を……『鳳凰の……呼吸』モードへと……固定……し、……闇の……住人の……肺に……新緑の……目覚めを……給気……しなさい……!!」
セインの眼鏡が黄金色に輝き、設計中のファンに「翠緑の換気術式」が上書きされた。
「……おお……、……私の……古びた……肺が……、……この……設計図を……見た……だけで……若返る……ようです……。……セイン様……、……その……計算式……、……一族の……魔導……書庫に……刻みたい……!!」
ハーフエルフの精密な演算により、古城の隅々まで「紫外線カット済み」の心地よい風を届けることが可能となった。
「……あはは、……やっぱり……あっちの……長老様たちが……あまりの……空気の……美味しさに……棺桶から……飛び出して……深呼吸……しちゃう……ほうに……銀貨……三枚……!! ……ねえ、……クレア……、……あたいが……古城の……廊下に……全自動……お掃除ロボ……放流するか……賭ける……!?」
カノンが、銀靴を鳴らしてセバスの周りをひらりと一回転した。
「……あはは! ……カノン様……、……どうか……お手柔らかに……。……掃除ロボットの……進軍に……驚いて……、……我が……守護竜が……気絶……せぬよう……、……祈る……ばかりです……」
セバスは、ようやく顔に安堵の(そして少しの恐怖を混ぜた)笑みを浮かべた。
私は、虹色の筋が走る**『銀竜の絆』**を一度鳴らし、セバスの手を優しく取った。
「……セバス様。……お掃除の……準備……、……整いました。……ミルの……故郷を……、……私たちの……家……みたいに……『快適』に……しに……行きましょう。……白金ランクの……初仕事……、……『古城の……大掃除』……ですね」
リトル・リンク、今日も(古の吸血鬼の城を、セバスの感激を追い風にして『世界一クリーンな魔窟』へとリフォームすべく立ち上がりながら)ちょっとだけ成長中。
第214話をお読みいただき、ありがとうございました。
白金ランクとしての初任務は、まさかの「ミルの実家の大掃除」!
呪いの儀式服を洗濯した次は、城全体の換気システムのリフォームです。
セインの流体計算とケットルの魔力ファンがあれば、数百年放置された「闇の澱み」も一気に吹き飛ぶことでしょう。
次回、一行はついに吸血鬼の古城「月蝕館」へ!
しかし、そこには掃除を拒む「頑固な汚れ(物理)」が待ち受けていて……?
応援いただける方は、ぜひ下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして、ブックマーク登録もよろしくお願いします!




