第215話 月蝕館の「瘴気」、再会の門と鳳凰の強風
セバスの先導で、私たちは深い霧に包まれた吸血鬼の古城「月蝕館」へと到着した。
そびえ立つ尖塔には、数世紀分の澱んだ魔力が紫色の「煤」となってこびりつき、門を開けた瞬間に、カビと埃が混ざった重苦しい空気が私たちの肺を突き刺した。
「……ふぅ。……おうち、……泣いてる……三秒前。……ミル、……パパと……ママの……魔力……視る……一秒前。……あ、……そこ……。……玉座……。……二人とも……、……埃……アレルギー……。……くしゅん……って……する……一秒前」
ミルの実況。彼女が**『もう壊さない杖』**を掲げると、玉座の間から「ハ、ハックシュン!!」という、威厳に欠ける高貴なクシャミが響き渡った。
吸血鬼の彼女には、現当主である父と、美しいが少し神経質な母が、逃げ場のないハウスダストに苦しめられながら、必死に「闇の貴族」としてのポーズを保っているのが視えていた。
「ガハハ! 冗談じゃないよ! 吸血鬼の王様夫妻が、そんなに鼻を赤くしてちゃ格好がつかないよ! ――セイン、玄関ホールの『自動・空気入れ替え術式』を、最大出力で展開しな!」
ケットルが、**『巨大背負い袋』**から「四層特製・翠緑の大型送風機」をガチャンと床に据え置いた。
「……ケットル様、……あまり……急激に……空気を……動かされますと……、……当主の……大切……な……コレクション……が……」
セバスが冷や汗を流して制止するのも聞かず、ケットルは鳳凰の熱核を強引に起動させた。
「……論理的に見て、……この……空間の……カビ……胞子……密度は……健康……被害……レベル……です。……構造解析……。……っ、……壁掛け……の……肖像画……の……裏に……、……万年……単位の……湿気……! ……環境上書き……! ……古城の……全窓を……強制……解放……モードへと……固定……し、……鳳凰の……烈風で……呪いの……埃を……浄化……しなさい……!!」
セインの眼鏡が黄金色に輝き、城全体の窓が一斉に火を噴くような音を立てて開け放たれた。
ハーフエルフの理知的な瞳が、埃の逃げ道を瞬時に算出。彼女の演算により、鳳凰の魔力を帯びた強風が回廊を駆け抜け、数百年分の「闇の澱み」を物理的な黒い霧として城外へと叩き出した。
「……あはは、……やっぱり……あっちの……パパ様たちが……風圧で……マント……めくれ上がって……パンツ……見えちゃう……ほうに……銀貨……三枚……!! ……ねえ、……クレア……、……あたいが……ママ様の……ドレスを……全自動……スチーム……洗浄するか……賭ける……!?」
カノンが、銀靴を鳴らして暴風の中を軽やかに跳ねた。
「……あはは! ……カノン様……、……奥様の……下着……事情……まで……賭けの……対象に……なさるとは……。……ですが……、……あの……真っ黒な……埃の……塊が……消え去る……様は……、……実に……壮観……でございます……」
セバスは、あまりの「爆風換気」に目を回しながらも、みるみる透明度を増していく城内の空気に、感動の声を漏らした。
私は、虹色の筋が走る**『銀竜の絆』**を一度鳴らし、霧が晴れた玉座の間に一歩踏み出した。
「……初めまして、……ミルの……ご両親。……お掃除の……邪魔……、……致しました。……でも……、……お鼻の……ムズムズ……、……もう……消えた……はず……ですよ?」
リトル・リンク、今日も(ミルの家族を強烈な『鳳凰の風』で歓迎し、吸血鬼の威厳を埃もろとも吹き飛ばしながら)ちょっとだけ成長中。
第215話をお読みいただき、ありがとうございました。
ついにお披露目、ミルのパパとママ!
しかし、再会の感動よりも先に、セインとケットルによる「物理的な大換気」が城内を襲いました。
数百年分の埃を吹き飛ばされた王夫妻は、今ごろ気まずい沈黙(とスッキリした鼻の通り)に驚いているはずです。
次回、綺麗になった玉座で、いよいよ「家族会議」と「本格リフォーム」の相談が始まります!
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