第212話 老執事の「困惑」、至高の紅茶と王宮級の寛ぎ
リビングに招き入れられたセバスは、鳳凰の羽毛クッションに腰を下ろした瞬間、そのあまりの「弾力」に吸血鬼としての威厳を危うく失いかけた。
数百年、古城の硬い石造りの椅子で背筋を伸ばしてきた彼にとって、座る者の体型を瞬時に解析して最適化する我が家のソファは、魔導評議会の禁忌術式よりも恐ろしい誘惑だった。
「……ふぅ。……じいや、……背骨……ボキボキ……一秒前。……ミル、……凝りの……魔力……視る……一秒前。……あ、……そこ……。……ソファの……自動……マッサージ……、……始まった。……三……二……一……、……あ、……魂……抜けた」
ミルの実況。彼女が**『もう壊さない杖』**を軽く振ると、セバスの足元に「四層特製・翠緑のフットウォーマー」が滑り込んだ。
吸血鬼の彼女には、一族のために奔走し続けた老執事の足腰に溜まった「数世紀分の疲労」が視えていた。セバスは「お、おほ……これは……」と、震える手で膝をさすり、信じられないものを見る目で周囲を見渡した。
「ガハハ! 冗談じゃないよ! 吸血鬼の執事様ともあろうお方が、ソファに埋もれて動けなくなっちゃいけないよ! ――セイン、じいやの喉がカラカラだねぇ! アタシの特製『鳳凰の残り火・深煎り紅茶』を出しといでな!」
ケットルが、**『巨大背負い袋』**から取り出した「結露しない魔導カップ」をテーブルに置いた。
ドワーフの職人にとって、来客を胃袋から解きほぐすのは基本の設計思想。彼女は、鳳凰の熱でじっくりと抽出した香草の雫を、セバスが一口飲むごとに、体内の魔力循環を正常化させる「四層特製・翠緑の香草」で整えていく。
「……論理的に見て、……セバス殿の……精神……緊張度は……過去最高……値を……記録……しています。……構造解析……。……っ、……深淵の……魔力……供給……、……不安定……! ……環境上書き……! ……リビングの……気圧を……標高……マイナス……三〇〇メートルへと……固定……し、……闇の……住人の……心臓を……完全に……安らぎ……モードへと……誘導しなさい……!!」
セインの眼鏡が黄金色に輝き、室内の気圧がミリ単位で調整された。
ハーフエルフの理知的な瞳が、セバスの「無理な強行軍」の痕跡を正確に予測。彼女の演算により、お茶の温もりと気圧調整がセバスの古びた肺を潤し、彼はついに「……ミルお嬢様……、貴女様は……何という……恐ろしい……場所へ……」と、熱い溜息を漏らした。
「……あはは、……やっぱり……あっちの……おじいさまが……あまりの……心地よさに……燕尾服の……ボタン……一つ……外しちゃう……ほうに……銀貨……三枚……!! ……ねえ、……クレア……、……あたいが……おじいさまに……特製……もこもこ……スリッパ……履かせるか……賭ける……!?」
カノンが、銀靴を鳴らしてセバスの背後に忍び寄った。
回避タンクとしての遊び心。彼女は、セバスが「私のような……汚れし……影が……これほどの……光の……安息に……」と感極まるのを、まるでお付きの孫娘のような手際よさでサポートし、彼の冷え切った指先に鳳凰の温もりを届け続けた。
私は、虹色の筋が走る**『銀竜の絆』**を傍らに置き、優しく微笑んだ。
「……セバス様。……お仕事の……お話は……、……その……カップの……中身が……空に……なって……から……で……大丈夫……ですよ。……ここは……、……世界で……一番……『快適』な……場所……ですから」
リトル・リンク、今日も(ミルの大切なじいやを、最高級の紅茶と無重力ソファで『ただのお疲れのおじいちゃん』へと浄化しながら)ちょっとだけ成長中。
第212話をお読みいただき、ありがとうございました。
ミルのじいや・セバス、リトル・リンクの「快適さ」という暴力の前に、一瞬で陥落!
数百年鍛え上げた吸血鬼の自制心も、セインの精密な環境制御とケットルの特製紅茶の前では無力でした。
もはや自分が何をしに来たのかさえ忘れそうなほどの寛ぎっぷり。
次回、ようやく語られる「吸血鬼の一族」からの伝言。
しかし、セバスはあまりの居心地の良さに「一族を捨ててここで働きたい」と言い出す予感が……!?
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