第211話 玄関先の「再会」、白銀のミストと懐かしき影
セインの空間歪曲を、穏やかながらも強大な魔力で押し広げ、一人の老紳士が現れた。
真っ黒な燕尾服に身を包み、背筋を真っ直ぐに伸ばしたその姿は、数百年を生き抜いた深淵の魔力を宿している。古の吸血鬼、それもかつてミルが「一族」にいた頃、彼女に礼儀作法を教え込んだという高潔な家令、セバス。
「……ふぅ。……じいや……、……懐かしい……におい……一秒前。……ミル、……安心の……魔力……視る……一秒前。……あ、……その……指輪……。……ミルが……昔……、……いたずらで……つけた……キズ……そのまま。……三……二……一……、……あ、……除菌……シュッシュ……された」
ミルの実況。彼女が**『もう壊さない杖』**を軽く振ると、玄関ホールの「全自動・鳳凰の洗浄ミスト」が、セバスの周囲を包み込んだ。
同じ吸血鬼でありながら、ミルが平然としているのは、彼女がこの家の「快適な結界」の一部として、鳳凰の魔力に「家族認証」されているから。対してセバスは、外部の澱んだ魔力を持ち込まないよう、我が家の鉄の掟による「聖なる洗礼」を真っ向から受けていた。
「ガハハ! 冗談じゃないよ! ミルの知り合いだろうが何だろうが、外の埃を撒き散らして入ってくるんじゃないよ! ――セイン、玄関の『全自動靴脱ぎ機』を、最高級のシルク質感に切り替えな!」
ケットルが、**『巨大背負い袋』**から「純銀・抗菌ナノスプレー」を取り出した。
ドワーフの職人にとって、吸血鬼の弱点である「銀」は最高の洗浄剤。彼女は、セバスが一歩踏み出すごとに、その靴底から闇の魔力を「物理的に」削ぎ落とし、同時に最高級の履き心地を提供する白銀の磨き上げ術式を床に展開する。
「……論理的に見て、……吸血鬼の……生理機能は……太陽光に……極めて……脆弱……です。……構造解析……。……っ、……セバス殿の……外套の……遮光率……九九%……! ……環境上書き……! ……玄関ホールの……照明を……鳳凰の……疑似……月光……モードへと……固定……し、……闇の……住人に……最高の……安らぎを……与えなさい……!!」
セインの眼鏡が黄金色に輝き、玄関が真昼のような眩しさから、一転して「最果ての夜」のような穏やかな銀色の光で満たされた。
ハーフエルフの理知的な瞳が、来客の属性を瞬時に判断。彼女の演算により、ミルに調整された「鳳凰の波長」がセバスにも共有され、彼はマントから上げていた煙をスッと収めると、「おお……なんと慈悲深い……月光の如き……」と、深く一礼した。
「……あはは、……やっぱり……あっちの……おじいさまが……あまりの……心地よさに……涙を……一滴……零しちゃう……ほうに……銀貨……三枚……!! ……ねえ、……クレア……、……あたいが……この……おじいさまに……特製……ノンアルコール……輸血パック……出すか……賭ける……!?」
カノンが、銀靴を鳴らしてセバスの背後をひらりと取った。
回避タンクとしての歓迎。彼女は、セバスが長旅で溜め込んだ「影の疲れ」を、鳳凰の熱源を微弱に混ぜたステップで霧散させ、彼をリビングへと誘った。
私は、虹色の筋が走る**『銀竜の絆』**を一度鳴らし、微笑んで扉を開けた。
「……ようこそ、セバス様。……ミルの……大切な……方は、……私たちの……大切……な……方……です。……お話は……、……その……長旅で……汚れた……靴下を……『鳳凰の……全自動洗浄機』で……洗って……、……最高の……お茶を……淹れてから……に……しましょうか」
リトル・リンク、今日も(一族の『適応者』であるミルのじいやを、銀の洗浄と疑似月光の『おもてなし』で骨抜きにしながら)ちょっとだけ成長中。
第211話をお読みいただき、ありがとうございました。
闇の使者改め、ミルの「じいや」セバスが登場!
不法侵入者への洗礼かと思いきや、セインの機転で「疑似月光」による最高級のおもてなしへと切り替わりました。
ミルを温かく見守ってきたセバスにとって、彼女がこれほど「快適」な場所で、仲間たちと楽しそうに暮らしている姿は、何よりの衝撃だったに違いありません。
果たして彼は、一族からどのような伝言を預かってきたのでしょうか。
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