第210話 鉄壁の「蜃気楼」、空飛ぶ招待状と見えない来客
セインの空間屈折術式によって、我が家は地図上から実質的に消失した。
門扉を叩こうとする商人は自分の尻尾を追いかけるように元の道へ戻り、強引な貴族の使者はいつの間にか近所のドブ川へと誘導される。
リビングには、鳳凰の熱源が奏でる穏やかなハミングと、翠緑の魔石が放つ清涼な風だけが満ちていた。
「……ふぅ。……お空、……白い……はね……いっぱい。……ミル、……執着の……魔力……視る……一秒前。……あ、……あれ……。……紙……じゃない。……鳥……でも……ない。……伝書……コウモリ……、……私の……親戚……? ……ううん……、……もっと……古い……吸血鬼の……ごあいさつ」
ミルの警告。彼女が**『もう壊さない杖』**を窓辺にかざすと、空間の歪みを強引に食い破り、一通の漆黒の招待状がリビングのテーブルへと突き刺さった。
吸血鬼の古参、それもミルの存在を知る「夜の貴族」からの接触。白金ランクの噂は、人間の世界だけでなく、闇の住人たちの耳にまで届いていたらしい。
「ガハハ! 冗談じゃないよ! 空間を捻じ曲げても入ってくるなんて、不法侵入もいいとこだよ! ――セイン、その不気味な手紙をアタシの『全自動滅菌洗浄機』に叩き込んで、闇の魔力ごと洗い流しな!」
ケットルが、**『巨大背負い袋』**から「銀イオン・高圧洗浄ノズル」を取り出した。
ドワーフの職人にとって、招かれざる不衛生な魔力は排除の対象。彼女は、招待状から漏れ出す古臭い呪いの波動を、鳳凰の熱と聖水のミストで瞬時に無力化し、ただの「少し香ばしい匂いのする紙」へと変質させた。
「……論理的に見て、……この……術式……貫通は……高位……吸血鬼……固有の……血統……魔術……です。……構造解析……。……っ、……封蝋の……紋章……、……魔導……評議会……の……影の……一族……! ……環境上書き……! ……室内の……魔力密度を……一二〇%へと……固定……し、……外部からの……遠隔……視覚を……鳳凰の……陽光で……焼き切りなさい……!!」
セインの眼鏡が黄金色に輝き、招待状から伸びようとした「影の触手」が光の飛沫となって霧散した。
ハーフエルフの理知的な瞳が、闇からの招待を「プライバシーの侵害」と断定。彼女の演算により、家全体の結界はさらに多層化され、深淵からの覗き見を許さない完璧な「光の檻」へと昇華された。
「……あはは、……やっぱり……あっちの……吸血鬼様が……自分の……使い魔が……泡に……なって……消えたのに……驚いて……棺桶から……落ちちゃう……ほうに……銀貨……三枚……!! ……ねえ、……クレア……、……あたいが……この……手紙に……『着払い』……の……呪い……返すか……賭ける……!?」
カノンが、銀靴を鳴らしてテーブルの招待状をひらりと指先で弾いた。
回避タンクとしての挑発。彼女は、闇からの不吉な気配を「一歩」の身のこなしで受け流し、相手がどれほど強力な魔物であろうと、この「快適な聖域」の一角さえも汚させないという強い意志を足音に込めた。
私は、虹色の筋が走る**『銀竜の絆』**を一度撫で、洗浄されたばかりの手紙に目を通した。
「……ありがとう、みんな。……夜の……お誘い……みたいだけど……、……私たちは……夜型……じゃないわ。……しっかり……寝て、……しっかり……食べて、……明日も……『快適』に……過ごすの。……返事は……、……鳳凰の……残り火で……焼いて……出しちゃいましょうか」
リトル・リンク、今日も(古の闇からの招待すらも『燃えるゴミ』として処理し、白金の安眠を全力で死守しながら)ちょっとだけ成長中。
第210話をお読みいただき、ありがとうございました。
人間の次は、闇の世界からの接触!
しかし、ミルの同族であってもリトル・リンクの「快適防衛網」は容赦ありません。
セインの遮断とケットルの洗浄により、呪い付きの招待状もただの燃料に。
白金ランクになったことで、いよいよ世界の「裏側」までが彼女たちを放っておかなくなってきました。
次回、その吸血鬼の使者が「直接」玄関に現れる……!?
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