第209話 白金の「代償」、殺到する依頼書と自動シュレッダー
ギルドから「白金ランク」という前代未聞の称号を引っ提げて帰宅した私たちを待っていたのは、鳳凰の熱源が唸る我が家のポストから溢れ出した、山のような手紙の束だった。
王家の友、内容秘匿の特等功績――その噂は、私たちが帰宅するよりも早く、街中の貴族や大商人たちの間に「魔法の解決屋」として広まっていたらしい。
「……ふぅ。……お外、……インクの……におい……いっぱい。……ミル、……欲望の……魔力……視る……一秒前。……あ、……その……紫色の……封筒。……『娘を……お嫁に……』だって。……クレア……、……モテモテ……一秒前」
ミルの実況。彼女が**『もう壊さない杖』**を軽く振ると、ポストに詰まった手紙の束が「自動仕分け術式」でリビングへと整列して飛んでいった。
吸血鬼の彼女には、封筒から漏れ出す「下心」や「打算」の澱みが視えていた。一通ずつ開封する手間さえ惜しむほど、その数はリトル・リンクの平穏を脅かそうとしていた。
「ガハハ! 冗談じゃないよ! アタシたちの家を、ただの何でも屋の窓口にするんじゃないよ! ――セイン、玄関の『自動シュレッダー』を、鳳凰の火力で灰にするモードに切り替えな!」
ケットルが、**『巨大背負い袋』**から取り出した「高速・吸気ファン」をポストの内側に設置した。
ドワーフの職人にとって、設計図以外の紙束はただのゴミ。彼女は、王家からの正式な親書以外を瞬時に吸い込み、鳳凰の残り火で「心地よい暖房の燃料」へと変換する無慈悲なシステムを完成させた。
「……論理的に見て、……これらの……依頼の……九割は……私たちの……時間を……奪う……だけの……不純物……です。……構造解析……。……っ、……封筒の……隙間に……、……追跡……用の……魔法……マーカー……! ……環境上書き……! ……我が家の……座標を……空間……屈折……モードへと……固定……し、……招かれざる……客の……視界から……物理的に……消滅……しなさい……!!」
セインの眼鏡が黄金色に輝き、家の周囲の景色が蜃気楼のように歪んだ。
ハーフエルフの理知的な瞳が、野次馬や強引な依頼人たちの視線をシャットアウト。彼女の演算により、リトル・リンクの家は「そこに在るのに辿り着けない」聖域へと上書きされ、玄関先で右往左往する商人の馬車を虚空へと受け流した。
「……あはは、……やっぱり……あっちの……成金……貴族が……門扉を……叩こうとして……自分の……屋敷に……戻っちゃう……ほうに……銀貨……三枚……!! ……ねえ、……クレア……、……あたいが……ポストの……入り口に……激辛……ペッパー……ガス……仕掛けるか……賭ける……!?」
カノンが、銀靴を鳴らしてポストの周りをひらりと一回転した。
回避タンクとしての防衛本能。彼女は、物理的な攻撃よりも厄介な「世間の注目」という名の不意打ちを、セインの幻惑術式に乗っかって華麗に回避し続け、平和なリビングの空気を死守した。
私は、虹色の筋が走る**『銀竜の絆』**を一度鞘に戻し、静かに紅茶を啜った。
「……ありがとう、みんな。……白金ランクに……なった……からって、……私たちの……『快適』は……譲れない……わね。……しばらくは……、……王家からの……特等……依頼以外……、……全部……お休み……に……しましょうか」
リトル・リンク、今日も(有名税という名の不純物を鳳凰の炎で焼き払いながら、白金の平穏を全力で死守して)ちょっとだけ成長中。
第209話をお読みいただき、ありがとうございました。
白金ランクへの昇格と同時に押し寄せる、欲望まみれの依頼の嵐!
しかし、リトル・リンクの鉄壁の防衛システム(とセインの空間歪曲)の前には、どんな執拗な商人や貴族も手出しできません。
ポストに入れた瞬間に燃料にされる手紙……快適な生活を守るためには、これくらいの「断捨離」が必要なのかもしれません。
次回、そんな鉄壁の防御を抜けてやってくる、「本当の危機」とは……?
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