第198話 王妃の「聖域」、黄金の洗浄と震える扇
王妃・イザベラ様は、誘われるままに廊下の奥へと進みました。
その突き当たりに鎮座する、鳳凰の魔力で淡く黄金色に発光する扉。彼女がそっと手を触れた瞬間、音もなく扉が開き、そこには王宮の礼拝堂さえも霞むような「純白と黄金の空間」が広がっていました。
「……ふぅ。……おうひさま、……お背中……ふるえてる。……ミル、……衝撃の……魔力……視える……一秒前。……そこ……、……自動……ふた……あく……。……三……二……一……、……あ、……膝の……力が……抜けた」
ミルが、静かに**『もう壊さない杖』**の先端を床に突き、王妃の足元に「転倒防止」の柔らかな重力層を敷きました。
吸血鬼の彼女には、王妃が人生で初めて目にする「近づくだけで蓋が開く便座」という未知の文明に対し、魂が揺さぶられているのが視えていました。王妃は扇を落としそうになりながらも、吸い寄せられるようにその「玉座」へと腰を下ろしました。
「ガハハ! 冗談じゃないよ! 王妃様ともあろうお方が、温かい便座の温もりに涙ぐんじゃあいけないよ! ――セイン、翠緑の魔石で生成した『森のせせらぎ音』を最大出力で流しといでな!」
ケットルが、**『巨大背負い袋』**から取り出した魔導リモコンを操作しました。
ドワーフの職人が、四層の主の素材を組み込んで一晩で改造した最新の「音姫」システム。それは単なる流水音ではなく、聴く者の精神を安らぎの深淵へと誘う、高次な癒やしの調べでした。
「……論理的に見て、……王妃殿下の……排泄……効率は……過去最高……値を……更新……します。……構造解析……。……っ、……洗浄……ノズルの……待機……位置……、……一ミリ……の……狂いも……なし……! ……環境上書き……! ……室内の……空気を……鳳凰の……産声による……完全……脱臭……モードへと……固定……し、……女神の……如き……清廉さを……保ちなさい……!!」
セインの眼鏡が黄金色に輝き、トイレ内の気圧と香りがミリ単位で調整されました。
ハーフエルフの理知的な瞳が、王妃が「洗浄ボタン」に指をかける瞬間をロックオン。彼女の演算により、放たれる温水は鳳凰の熱を宿し、かつリヴァイアサンの氷鱗で浄化された、もはや「聖水」と呼ぶべき極上の飛沫となって王妃を直撃しました。
「……あはは、……やっぱり……あっちの……王妃様が……あまりの……衝撃に……『ああ……っ!』って……小さな……声……漏らす……ほうに……銀貨……三枚……!! ……ねえ、……クレア……、……あたいが……トイレットペーパーを……最高級の……羊皮紙に……変えるか……賭ける……!?」
カノンが、銀靴を鳴らして扉の外で楽しげに耳を澄ませました。
回避タンクとしての遊び心。彼女は王妃の護衛騎士たちが「不敬だぞ! 中で何が起きている!」と騒ぎ立てるのを、ひらりと身をかわしながら、「いま、王妃様は世界で一番幸せな場所にいるんだよ」とウィンク一つで黙らせました。
数分後。
扉が開き、そこにはまるで聖母のような、全てを悟ったかのような慈愛に満ちた表情のイザベラ様が立っていました。
「……クレア。……私は、……私は……今まで、……王冠の……重さばかりを……気にして、……この……『真実の豊かさ』を……知らずに……生きてきました。……この……洗浄……、……これこそが……王国の……進むべき……光……なのですね……」
王妃の瞳には、もはや政治的な思惑などなく、ただ「この家を王宮ごと買い取りたい」という切実な欲望が宿っていました。
リトル・リンク、今日も(王国の母を、四層の素材で神格化したトイレの「圧」で完全に味方につけながら)ちょっとだけ成長中。
第198話をお読みいただき、ありがとうございました。
王妃様、ついに「聖域」の洗礼を完遂!
最新式の自動洗浄ノズルから放たれた「聖水」の前に、王族としてのプライドも全て洗い流されてしまったようです。
レオナルド殿下の言っていたことが正しかったと確信した彼女は、この後どんな提案をリトル・リンクに持ちかけるのでしょうか。
まさかの「王宮全館トイレリフォーム工事」の依頼が舞い込む予感……!?
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