第189話 王子の帰還、白金の別れと「絆」の証
庭先に転がった暗殺者たちの山を、ケットルが「いい労働力だねぇ」と笑いながら地下の資材置き場(という名の強制草むしり場)へ引きずっていった後。
一週間の「家庭教師兼護衛」の任期を終え、再び我が家の前に白金の馬車が横付けされました。
「……ふぅ。……おわかれ。……おうじさま、……魔力が……太くなった……一秒前。……ミル、……これ……あげる。……吸血鬼の……おまもり。……あっち……、……退屈に……なったら……、……これ……握って」
ミルが、静かに**『もう壊さない杖』**の先端で削り出した、紅い小さな結晶を王子の手に握らせました。
吸血鬼の彼女には、王子の瞳から「退屈の澱み」が消え、代わりに自分自身の足で大地を踏みしめる強固な意志が宿っているのが視えていました。
「ガハハ! 冗談じゃないよ! 王宮に帰っても、アタシが教えた洗浄砲の扱いを忘れるんじゃないよ! ――セイン、殿下の荷物に『特製・携帯用温水洗浄便座』を忍ばせといでな!」
ケットルが、**『巨大背負い袋』**から取り出した、ドワーフの技術の粋を集めた「魔導ポータブルトイレユニット」を馬車の隅に押し込みました。
彼女にとって、一度「快適さ」を知った弟子を、不便な王宮の生活に戻すのは職人のプライドが許さなかったのです。
「……論理的に見て、……殿下の……今後の……王宮……生活における……QOLの……維持は……最優先……事項……です。……構造解析……。……っ、……王子の……心拍数……、……惜別の……情が……九五%……! ……環境上書き……! ……馬車……周囲の……風向きを……追い風へと……固定……し、……輝かしい……未来へと……送り出しなさい……!!」
セインの眼鏡が黄金色に輝き、白金の馬車を包む風が優しく渦巻きました。
ハーフエルフの理知的な瞳が、王子の成長を静かに肯定。彼女の演算により、王子の帰路は一切の障害もなく、王家への最短ルートとして最適化されました。
「……あはは、……やっぱり……あっちの……王子様が……城に……着いた……瞬間に……うちの……風呂が……恋しくて……泣き出す……ほうに……銀貨……三枚……!! ……ねえ、……クレア……、……あたいが……馬車の……車輪に……加速……魔法……かけるか……賭ける……!?」
カノンが、銀靴を鳴らして王子の周りをひらりと一回転しました。
回避タンクとしての情愛。彼女は王子の小さな肩をポンと叩き、王宮の護衛騎士たちが驚くほどの速さで、そのポケットに「三層特製の干し肉」を放り込みました。
私は、虹色の筋が走る**『銀竜の絆』**を静かに鞘に納め、タラップに足をかけたレオナルド殿下を見つめました。
「……殿下、……お元気で。……あなたは……もう……、……守られるだけの……子供では……ありません。……迷ったら……、……手のひらの……マメを……見て。……それは……、……あなたが……掴み取った……真実の……力ですから」
「……ありがとう、クレア。……そして、皆。……私は誓おう。……この『リトル・リンク』で学んだ、生きるための知恵と、……そしてこの至高のトイレを……いつか必ず王宮に……いや、王国中に広めてみせると!!」
王子の力強い(そして少し斜め上の)宣言と共に、馬車が動き出しました。
小さくなっていく少年の背中を見送りながら、私は仲間たちと顔を見合わせ、微笑みました。
リトル・リンク、今日も(王位継承権を持つ少年に「洗浄の革命」を託し、新たな絆を胸に刻みながら)ちょっとだけ成長中。
第189話をお読みいただき、ありがとうございました。
レオナルド殿下の家庭教師編、これにて完結!
最初は高慢だった王子も、リトル・リンクの「快適さ」と「厳しさ」に触れ、一回りも二回りも逞しくなって王宮へと帰っていきました。
彼が持ち帰った「携帯用洗浄便座」が、王国の歴史をどう変えてしまうのか……。
そして次なる物語は、いよいよ再び深淵の四層へ!
応援いただける方は、ぜひ下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして、ブックマーク登録もよろしくお願いします!




