第185話 王子の困惑、聖域の「洗浄」と裸の社交辞令
特製スープを飲み干し、お腹も心も満たされたレオナルド殿下を待っていたのは、本日最後の「修行」でした。
私は、虹色の筋が走る**『銀竜の絆』**を壁に立てかけ、廊下の突き当たり、あの黄金の光が漏れる扉を指差しました。
「……殿下、……冒険者の……一日は……、……身を……清めて……終わります。……次……、……あそこの……『聖域』で……一日の……汚れを……落として。……これ……、……魔導……タオル……持って」
「なっ、なんだこの……神々しい扉は! 先ほど一度借りたが、中には奇妙な磁器の玉座があったぞ。そこで何を清めるというのだ!? 私は王宮の金箔張りの浴場でしか体を洗わぬぞ!」
王子の困惑を鼻で笑ったのは、ドワーフの職人でした。
「ガハハ! 冗談じゃないよ! 王宮の湯船がなんだい、アタシたちの『鳳凰のボイラー』を通したお湯は、一滴で肌が再生するよ! ――セイン、殿下のマントを脱がしてやりな! 冒険者はいつだって丸裸で真実に向き合うもんさ!」
ケットルが、**『巨大背負い袋』**から「全自動洗濯乾燥機」を起動させ、王子の豪華な衣装を強引に回収しました。
ドワーフの彼女にとって、泥と玉ねぎの汁がついた王服は、最高の洗浄実験体。彼女は王子をリビングの「聖域」へと押し込みました。
「……ふぅ。……おうじさま、……お肌……ぴかぴか。……ミル、……魔力……弾ける……一秒前。……そこ……、……シャワーの……ボタン。……押すと……、……鳳凰の……産声……聞こえる。……熱い……けど……きもちいい……。……三……二……一……、……あ、……出しすぎ」
ミルが、静かに**『もう壊さない杖』**を掲げ、浴室内の蒸気に「疲労回復魔力」を混入させました。
吸血鬼の彼女には、王子の細い肩に溜まった「重圧」の澱みが視えていました。王子の叫び声と共に、浴室から「熱い! いや、これは……温かいのか!? 身体が……溶ける……!」という、恍惚とした絶叫が響き渡りました。
「……論理的に見て、……殿下の……角質層への……浸透……効率は……極めて……良好……です。……構造解析……。……っ、……自動……洗浄……ノズルの……角度が……甘い……! ……環境上書き……! ……室内の……水圧を……ピンポイント……指圧……モードへと……固定……し、……殿下の……腰痛を……根源から……抹消……しなさい……!!」
セインの眼鏡が黄金色に輝き、浴室の魔導回路がフル稼働しました。
ハーフエルフの理知的な瞳が、王子の小さな背中にかかる負担を計算。彼女の演算により、鳳凰の熱湯は精密なマッサージ水流へと変わり、王子の幼い身体を徹底的に解きほぐしていきました。
「……あはは、……やっぱり……あっちの……王子様が……あまりの……気持ちよさに……風呂場で……寝落ちする……ほうに……銀貨……三枚……!! ……ねえ、……クレア……、……あたいが……王子の……パンツ……隠すか……賭ける……!?」
カノンが、銀靴を脱いでリビングをひらりと舞い、王子の脱ぎ捨てた靴下を器用に回収しました。
回避タンクとしての遊び心。彼女は王子の護衛騎士たちが「殿下のお姿が……!」と慌てるのを、セインの「幻惑術式」で煙に巻きながら、優雅に温かいココアの準備を始めました。
三十分後。
ふかふかの綿毛布に包まれ、頬を桃色に染めたレオナルド殿下が、ふらふらとリビングに戻ってきました。
「……クレア。……私は……今まで、……何を……信じて……生きてきたのだ……。……あの……自動で……流れる……水……、……あの……温かい……便座……、……そして……この……鳳凰の……湯……。……王宮が……、……王宮が……あまりにも……不便に……思えてきた……」
王子の瞳には、もはや高慢な光はなく、ただ「リトル・リンク」という名の未知の快適さへの畏敬の念が宿っていました。
「……ふふ、……それが……私たちの……日常ですよ、……殿下。……さあ、……ゆっくり……お休み……なさい。……明日は……、……いよいよ……庭先で……剣の……素振りを……教えますから」
リトル・リンク、今日も(王位継承権を持つ少年の「快適さの基準」を最新式洗浄システムで完膚なきまで破壊しながら)ちょっとだけ成長中。
第185話をお読みいただき、ありがとうございました。
王子の冒険者教育、仕上げは「極上の洗浄」!
ケットルの魔導ボイラーとセインのピンポイント水圧により、王子は王宮への帰還を躊躇うほどに骨抜きにされてしまいました。
家の中の仕掛けを堪能した殿下。
明日はいよいよ、クレアによる「実戦教育」が始まりますが、果たしてこのふにゃふにゃになった状態で剣が振れるのでしょうか?
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