第184話 王子の包丁、戦慄の「玉ねぎ」と涙の結束
掃除を終え、ピカピカになったキッチンに、水も滴る良い男(物理)となったレオナルド殿下が立ちました。
私は、虹色の筋が走る**『銀竜の絆』**を一度鞘に収め、代わりに一本の無骨な包丁を差し出しました。
「……殿下、……冒険者の……身体は……食事で……作られます。……次……、……この……玉ねぎ……、……茶色の……皮を……剥いて。……これ……、……魔導……ピーラー……使わずに……手で……やって」
「なっ、なんだこの茶色い塊は……! これが、あの王宮のスープに浮いている甘い具材の正体だというのか!? 土の匂いがするぞ、不潔ではないか!」
王子の戸惑いを一喝したのは、ドワーフの職人でした。
「ガハハ! 冗談じゃないよ! 土を怖がってちゃ、迷宮のレア薬草なんて一株も抜けやしないよ! ――セイン、殿下の指先が震えてるねぇ! 補助してやりな、アタシの自慢の包丁で怪我させちゃ寝覚めが悪い!」
ケットルが、**『巨大背負い袋』**から取り出した「超鋼鉄の三徳包丁」をまな板に置きました。
ドワーフの鍛冶技術が注がれたその刃は、魔物の皮さえも紙のように断つ一品。彼女は王子の不器用な手つきを鼻で笑いながらも、しっかりと火加減を調整し始めました。
「……ふぅ。……おうじさま、……おめめ……しばしば。……ミル、……玉ねぎの……攻撃……視える……一秒前。……そこ……、……辛い……成分……、……飛んでくる。……よけて。……三……二……一……、……あ、……遅かった」
ミルが、静かに**『もう壊さない杖』**を掲げ、王子の周囲に「防涙結界」を張ろうとしましたが、一歩間に合いませんでした。
吸血鬼の彼女には、玉ねぎから放出される硫化アリルが、王子の高貴な涙腺を直撃する軌道が視えていました。王子は「ぐぬぬ……、目が、目がぁ!」と悶絶し、生まれて初めて「野菜の反撃」を食らいました。
「……論理的に見て、……玉ねぎの……細胞……破壊による……催涙……成分は……不可避……です。……構造解析……。……っ、……包丁の……進入……角度が……甘い……! ……環境上書き……! ……まな板の……周囲の……気流を……上昇……気流へと……固定……し、……刺激を……上空へ……逃がしなさい……!!」
セインの眼鏡が黄金色に輝き、キッチンの空気が一変しました。
ハーフエルフの理知的な瞳が、王子の涙の原因を物理的に排除。彼女の演算により、王子の手元は常にクリーンな空気に包まれ、乱暴だった包丁の動きは、セインの「筋力制御誘導」によって精密な千切りへと変わっていきました。
「……あはは、……やっぱり……あっちの……王子様が……自分で……切った……野菜の……多さに……驚く……ほうに……銀貨……三枚……!! ……ねえ、……クレア……、……あたいが……王子の……鍋に……激辛……スパイス……入れるか……賭ける……!?」
カノンが、銀靴を鳴らして不敵に笑いました。
回避タンクとしての遊び心。彼女は王子の涙をハンカチで拭ってやるふりをして、ひらりと身をかわし、代わりにケットルが用意した特製の魔導塩を王子に手渡しました。
一時間後。
リビングには、黄金色に透き通った「三層氷鱗と鳳凰肉の特製スープ」の香りが立ち込めました。
「……信じられん。……あの……土臭い……塊が、……私の……手で……これほどまでに……芳醇な……香りに……変わるとは……。……クレア、……私が……作ったのか? ……本当に……私が……!?」
王子の瞳には、自らの労働が「糧」へと変わった瞬間の、純粋な喜びが溢れていました。
「……ええ、……殿下。……これが……『生きる』……ための……冒険……ですよ。……さあ、……みんなで……いただきましょう。……冷めない……うちに」
リトル・リンク、今日も(王位継承権を持つ少年の「食への感謝」を玉ねぎの涙と共に引き出しながら)ちょっとだけ成長中。
第184話をお読みいただき、ありがとうございました。
王子の冒険者教育、第二弾は「料理」!
セインの気流制御とミルの予知(?)により、王子は人生初の自炊に成功しました。
自ら手を汚し、涙を流して作ったスープの味は、王宮のどんな馳走よりも深く心に染みたようです。
次なる教育は、ついに「冒険者の休息」――そう、あの聖域での反省会!?
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