第183話 王子の目覚め、実戦(掃除)の儀式と輝く「洗浄砲」
最新式トイレから生還したレオナルド殿下の瞳には、先ほどまでの退屈な色は微塵もありませんでした。
しかし、冒険の過酷さを教える「家庭教師」として、ここで甘やかすわけにはいきません。私は虹色の筋が走る**『銀竜の絆』**を一度鳴らし、王子に向き直りました。
「……殿下、……快適な……休息は……終わりました。……冒険者の……朝は……、……まず……拠点を……整える……ことから……始まります。……さあ、……その……重い……王笏を……置いて……。……これ……、……魔導……タワシ……持って」
「なっ、なんだこれは……! 私に……掃除をしろというのか!? この私が、王宮のメイドたちにさえさせたことのない雑事などを!」
王子の抗議を鼻で笑ったのは、ドワーフの職人でした。
「ガハハ! 冗談じゃないよ! 自分の足元も綺麗にできない奴が、迷宮の奥底で生き残れるわけないだろう! ――ケットル特製、高圧洗浄砲・『ケルヒャー改』の出番だねぇ!」
ケットルが、**『巨大背負い袋』**から無骨な金属製の筒を取り出しました。
それは本来、三層の泥を吹き飛ばすための洗浄兵器。彼女はそれを王子の華奢な手に無理やり握らせました。
「……ふぅ。……おうじさま、……腰……引けてる。……ミル、……魔力……流し込む……一秒前。……そこ……、……窓枠の……カビ。……あいつ……、……悪い……魔力……吸ってる。……狙って……。……三……二……一……、……パシュッ……!!」
ミルが、静かに**『もう壊さない杖』**を掲げ、洗浄砲の噴射口に「一点集中」の魔力を付与しました。
吸血鬼の彼女には、家の隅に溜まった魔力汚染の「澱み」が視えていました。王子の放った高圧水流が、ミルの誘導によってカビを一瞬で蒸発させると、王子は思わず「おおっ!」と声を上げました。
「……論理的に見て、……汚れの……付着力は……環境……魔圧に……比例……します。……構造解析……。……っ、……床の……タイルの……目地に……、……しつこい……油脂……! ……環境上書き……! ……室内の……摩擦係数を……一・五倍に……固定……し、……殿下の……踏ん張りを……支えなさい……!!」
セインの眼鏡が黄金色に輝き、滑りやすいリビングの床が、王子の靴底をガッチリと掴みました。
ハーフエルフの理知的な瞳が、王子の拙い手つきを即座に補正。彼女の演算により、王子の放つ水流はまるでプロの職人のような完璧な軌道を描き、我が家の床を鏡のように磨き上げていきました。
「……あはは、……やっぱり……あっちの……王子様が……自分で……綺麗に……した……床で……滑って……転ぶ……ほうに……銀貨……三枚……!! ……ねえ、……クレア……、……あたいが……王子の……後ろから……バケツの……水……かけるか……賭ける……!?」
カノンが、銀靴を鳴らして不敵に笑いました。
回避タンクとしての遊び心。彼女は王子の背後をひらりと舞いながら、洗浄砲の反動でよろける少年の背中を、そっと手で支えては加速させました。
数十分後。
全身水浸しになりながらも、レオナルド殿下は自らの手で輝かせたリビングを見渡し、肩で息をしていました。
「……はぁ、はぁ。……信じられん。……ただの……掃除が……これほどまでに……達成感に……満ちているとは……。……クレア、……次は……何をすればいい……!?」
王子の瞳には、王宮では決して得られなかった「自分の力で環境を変えた」という熱い輝きが宿っていました。
「……ふふ、……いい……お顔に……なりましたね。……次は……、……その……汚れた……服を……脱いで……。……みんなで……特製の……冒険者……スープを……作りましょう」
リトル・リンク、今日も(王位継承権を持つ少年の「労働の喜び」を魔導洗浄砲で目覚めさせながら)ちょっとだけ成長中。
第183話をお読みいただき、ありがとうございました。
王子の冒険者教育、第一弾はまさかの「大掃除」!
ケットル特製の洗浄砲とセインの摩擦制御により、王子は自分の力で家を綺麗にする快感を知ってしまいました。
次なるステップは、冒険者の生命線である「炊事」。
果たして、包丁を持ったことのない王子は、リトル・リンクの特製スープを完成させることができるのでしょうか。
応援いただける方は、ぜひ下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして、ブックマーク登録もよろしくお願いします!




