第182話 王子の戦慄、黄金の便座と「未知」の衝撃
リビングに招き入れられたレオナルド殿下は、まずその空気の質に絶句していました。
王宮の魔法障壁による「管理された温かさ」とは違う、鳳凰の生命力と氷鱗の清涼感が混ざり合った、呼吸するだけで細胞が活性化するような至高の空間。
「……ふぅ。……おうじさま、……おくち……開いてる。……ミル、……驚きの……魔力……視える……一秒前。……そこ……、……ふかふかの……ソファ。……座ると……、……立てなく……なる……呪い……かかって……ない……けど……離れられない」
ミルが、静かに**『もう壊さない杖』**を床に突き、王子の足元に「超柔軟化魔力」を這わせました。
吸血鬼の彼女には、王子の緊張が解け、身体がこの家の「心地よさ」を認め始めているのが視えていました。王宮の硬い椅子しか知らない少年は、一度腰を下ろした瞬間、あまりの沈み込みの深さに「ひゃうっ」と情けない声を上げました。
「ガハハ! 冗談じゃないよ! 王子様、そんなに驚いてちゃこの先持たないよ! ――セイン、喉が渇いてるみたいだ。アタシたちの『三層特製・氷結ソーダ』を出しといでな!」
ケットルが、**『巨大背負い袋』**から取り出した「氷晶グラス」をテーブルに置きました。
ドワーフの職人が作り上げたそのグラスは、飲み物を常に氷点下ギリギリに保つ、魔導回路の結晶。鳳凰の熱核で温まった身体に、リヴァイアサンの魔力が溶け込んだ極冷の飲料が注がれます。
「な、なんだこれは……! 私の知る氷魔法の飲み物とは、魔力の純度が違いすぎる! ……っ、それより、事務官。……先ほどから、この……腹の奥が……騒がしい。……長旅のせいか、……それともこの家の魔力のせいか……」
王子の顔が、少しずつ青白くなっていくのを私は見逃しませんでした。
「家庭教師兼護衛」の初任務。それは、王家のプライドを傷つけずに、最高級の「解放」を教えること。
「……論理的に見て、……殿下の……消化……器系は……限界……です。……構造解析……。……っ、……括約筋の……緊張……、……九〇%……! ……環境上書き……! ……廊下の……照明を……聖なる……輝きへと……固定……し、……『聖域』へと……誘いなさい……!!」
セインの眼鏡が黄金色に輝き、廊下の奥が神々しくライトアップされました。
ハーフエルフの理知的な手引きにより、王子は縋るような思いで、私たちの自慢の「自動洗浄トイレ」へと飛び込んでいきました。
「……あはは、……やっぱり……あっちの……王子様が……初めての……温水……洗浄で……叫び声……あげる……ほうに……銀貨……三枚……!! ……ねえ、……クレア……、……あたいが……ドアの前で……実況……するか……賭ける……!?」
カノンが、銀靴を鳴らして不敵に笑いました。
回避タンクとしての遊び心。彼女は王子の護衛騎士たちが「不敬だぞ!」と色めき立つのを、片手で制しながら、トイレの中から聞こえてくる「未知との遭遇」を待ち構えていました。
数分後。
扉が開き、そこには人生で一度も見たことがないほど「澄み渡った瞳」をしたレオナルド殿下が立っていました。
「……クレア、と言ったか。……我が王宮の魔導技師たちは、今まで何をしていたのだ。……これこそが、……これこそが真の『魔法』ではないか……!!」
王子の瞳から、退屈の色が消えていました。
私は、虹色の筋が走る**『銀竜の絆』**を一度撫で、優しく微笑みました。
「……殿下、……これが……『冒険者』の……生活ですよ。……外の世界は、……王宮の……教科書よりも……ずっと……刺激に……満ちています」
リトル・リンク、今日も(王位継承権を持つ少年の価値観を、最新式トイレの「水圧」で根底から覆しながら)ちょっとだけ成長中。
第182話をお読みいただき、ありがとうございました。
レオナルド殿下、ついに「聖域」の洗礼を受けました!
王宮の贅沢よりも、一軒の冒険者の家にある「快適さ」が少年の心(とお腹)を救ったようです。
これで少しは心を開いてくれるかと思いきや、次なる課題は殿下の「冒険教育」。
実戦に出る前に、まずは家の中の「仕掛け」で彼を鍛え直すことに!?
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