第181話 王子の降臨、白金の馬車と「普通」の拒絶
数日後。街外れの我が家の前に、場違いなほど豪華な白金の馬車が横付けされました。
近所の子供たちが遠巻きに眺める中、タラップが下ろされ、一人の少年が降り立ちました。
「……ふぅ。……キラキラ。……あっちの……男の子、……魔力が……金貨……の……におい。……ミル、……まぶしい……一秒前。……でも……、……おめめ……、……退屈……って……言ってる」
ミルが、玄関の陰から**『もう壊さない杖』**を抱えて呟きました。
吸血鬼の彼女には、第三王子・レオナルド殿下の周囲を漂う「退屈の澱み」が視えていました。王宮での何不自由ない生活に飽き果て、刺激を求めてやってきた少年。彼は目の前にある、私たちの「ごく普通の家」を見て、露骨に眉を寄せました。
「おい、事務官。ここが『リトル・リンク』の拠点か? 冗談だろう、ただの民家ではないか。鳳凰を討ったというから、もっとこう……浮遊する城だとか、火を噴く門番がいると思ったのだがな」
王子の尊大な言葉に、背後で控えていた事務官が冷や汗を流しました。
しかし、その背後で誰よりも早く「冗談じゃない」という顔をしたのは、ドワーフの職人でした。
「ガハハ! 冗談じゃないよ! 外見だけで中身を判断するたぁ、坊ちゃん、まだまだ修行が足りないねぇ! ――セイン、この世間知らずの王子様に、アタシたちの『本気』を見せてやりな!」
ケットルが、**『巨大背負い袋』**から「自動迎賓用マット」を蹴り出しました。
彼女にとって、機能美こそが至高。外見が質素なのは、防犯と実用性を兼ね備えた結果に過ぎません。
「……論理的に見て、……殿下の……期待値……設定は……誤っています。……構造解析……。……っ、……足元の……泥……、……王宮の……庭園……のもの……! ……環境上書き……! ……玄関の……重力を……一・二倍に……固定……し、……姿勢を……正させなさい……!!」
セインの眼鏡が黄金色に輝き、玄関ホールの空気が一変しました。
ハーフエルフの理知的な瞳が、王子の無礼な態度を「矯正」すべき対象としてロックオン。彼女が構築した重力波により、王子はまるで目に見えない巨人に肩を叩かれたかのように、思わず背筋を伸ばして一歩踏み出しました。
「……あはは、……やっぱり……あっちの……王子様が……うちの……自動……靴磨き機で……ひっくり返る……ほうに……銀貨……三枚……!! ……ねえ、……クレア……、……あたいが……あの……高い……マントに……落書き……するか……賭ける……!?」
カノンが、銀靴を鳴らして不敵に笑いました。
回避タンクとしての遊び心。彼女は王子の護衛騎士たちが剣の柄に手をかけるのを鼻で笑い、ひらりと身をかわして王子の背後に回り込みました。
私は、虹色の筋が走る**『銀竜の絆』**を背中に隠し、一歩前に出ました。
「……ようこそ、レオナルド殿下。……私たちの……冒険は、……見た目ほど……優しく……ありませんよ。……まずは……、……その……重い……マントを……脱いで……。……当家の……『おもてなし』を……受けて……いただきます」
私は微笑み、王子をリビングへと促しました。
王宮の贅を尽くした暮らししか知らない少年が、鳳凰の熱とリヴァイアサンの氷鱗、そして「あのトイレ」に屈するまで、あと一分。
リトル・リンク、今日も(王家の威厳を「快適さ」という暴力でじわじわと削りながら)ちょっとだけ成長中。
第181話をお読みいただき、ありがとうございました。
ついにやってきた第三王子レオナルド殿下。
最初は高圧的だった彼ですが、セインの重力操作とリトル・リンクの「規格外の家」に一歩ずつ飲み込まれていきます。
次回、王子殿下、人生で初めて「文明の利器(洗浄トイレ)」に敗北する!?
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