第180話 至高の「圧」、最新式トイレと王家からの預かりもの
リビングに招き入れられたギルドの事務官は、一歩足を踏み入れた瞬間に呆然と立ち尽くした。
外の寒風が嘘のような、鳳凰の熱源とリヴァイアサンの氷鱗が織りなす「常春」の空気。そして、ほのかに香る高級な茶葉の匂い。
「……あ、あの……。失礼ながら、ここが本当に『リトル・リンク』の皆様のご自宅で……?」
「ええ、少しばかり……居心地を良くしているだけですよ。さあ、まずは温かいお茶でも」
私が微笑んでソファを勧めると、事務官は恐縮しながら腰を下ろした。
しかし、その表情には隠しきれない困惑と切実な「生理的欲求」が張り付いている。
「……ふぅ。……おじさん、……お顔……まっしろ。……ミル、……不安な……魔力……視える……一秒前。……あの……お茶、……飲むと……落ち着く。……あと……、……そこ……、……廊下の……つきあたり。……がまん……しないで……。……あそこ……、……天国……」
ミルが、静かに**『もう壊さない杖』**を揺らしながら、廊下の奥を指差した。
吸血鬼の鋭い観察眼が、事務官が長旅の末に限界を迎えていることを看破していた。
「ガハハ! 冗談じゃないよ! そんな青い顔してちゃ、大事な伝言もろくに喋れないだろう? ――セイン、案内してやりな! 世界で一番快適な『聖域』へね!」
ケットルがニヤリと笑い、事務官を急かした。
ドワーフの彼女が作り込み、鳳凰の加護まで宿した最新式トイレ。それは、もはや生活設備を超えた、人類の至宝とも呼べるものだった。
「……論理的に見て、……生理……現象の……解消は……交渉の……円滑化に……直結……します。……構造解析……。……っ、……自動……蓋……開閉……! ……環境上書き……! ……流水音と……脱臭……機能を……フル……稼働……させ、……極上の……解放感を……提供……しなさい……!!」
セインの眼鏡が黄金色に輝き、事務官は夢遊病者のようにトイレへと吸い込まれていった。
「……あはは、……やっぱり……あっちの……おじさんが……出てきた時に……魂抜けた……みたいな……顔に……なるほうに……銀貨……三枚……!! ……ねえ、……クレア……、……王家と……仲良く……するのは……いいけど……、……これ……絶対……面倒な……やつだよぉ!!」
カノンが、私の隣で耳打ちした。
回避タンクとしての予感。王家が「最弱」の皮を被った私たちを指名してきたのは、自分たちが持ち込んだ鳳凰の素材によって、その真価を認められたからに他ならなかった。
数分後。
扉が開き、そこにはあまりの「衝撃的な快適さ」に頰を赤らめ、すっかり骨抜きになった事務官が戻ってきた。
「……し、失礼いたしました。……それで……、本題ですが。王家より、指名依頼です。……実は、第三王子殿下が『本物の冒険が見たい』と……。つきましては、一週間、殿下の『家庭教師兼護衛』をお願いしたいのです」
……王子様のお守り?
魔物の討伐よりも、ある意味で神経を使いそうな依頼だ。私は、虹色の筋が走る**『銀竜の絆』**を一度強く握り、事務官を見据えた。
「分かりました。……王家との縁は大切にしたいですし、謹んでお受けしましょう。……その代わり、殿下が私たちの『生活』に驚いても、責任は持てませんよ?」
リトル・リンク、今日も(最新式トイレで王家の使いを落とし、想定外の「王子教育」という任務を背負いながら)ちょっとだけ成長中。
第180話をお読みいただき、ありがとうございました。
王家からの依頼は、まさかの「第三王子のお守り」!
戦いよりも厄介そうな相手に、リトル・リンクの面々はどう立ち向かうのか。
次回、わがままな王子様、我が家の「快適装備」に度肝を抜かれる!?
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