第179話 招かれざる「指名」、ギルドの封書と黄金のティータイム
鳳凰の熱源とリヴァイアサンの氷鱗が完璧な調和を見せ、我が家は街外れの一軒家とは思えないほどの極楽浄土と化していた。
私が、リニューアルされた自動洗浄トイレの驚異的な「洗浄圧」と、氷鱗によって常に最適な温度に保たれた便座の温もりに感動していた、その時。
――トントン。
柔らかな陽光が差し込む玄関に、控えめだが確かなノックの音が響いた。
「……ふぅ。……だれ。……お外、……ギルドの……制服の……におい。……ミル、……魔力……視る……一秒前。……あ、……これ……事務官さん。……怖い……おじさん……じゃない。……でも……、……手に……真っ赤な……封筒……持ってる」
ミルが、ソファから重い腰を上げ、**『もう壊さない杖』**を杖代わりに玄関を覗き込んだ。
吸血鬼の彼女には、その封筒から漏れ出す「緊急性」と「強制力」を伴う魔力の残滓が見えていた。現れたのはギルドの事務官。少し前に私たちが換金所に持ち込んだ「鳳凰の熱核」という、到底「最弱」には不可能な素材に驚愕したギルドが、ついに重い腰を上げたのだ。
「ガハハ! 冗談じゃないよ! せっかく新しい素材で暖炉を改造したばかりだってのに、もう次の仕事かい!? ――セイン、あの赤い封筒は『指名依頼』だね! アタシたちの安眠が、ギルドの勝手で叩き起こされちまうよ!」
ケットルが、**『巨大背負い袋』**の整理を中断し、苦虫を噛み潰したような顔をした。
ドワーフの彼女にとって、戦利品をじっくりと家の設備へ組み込む時間は至福のひととき。鳳凰の素材から自分たちの実力を察知したギルドからの指名は、金貨千枚の価値がある休息を奪う「無礼な呼び出し」に他ならなかった。
「……論理的に見て、……真っ赤な……封筒は……拒否……権の……ない……強制……指名……依頼……です。……構造解析……。……っ、……封蝋に……王家の……紋章……! ……環境上書き……! ……玄関の……室温を……最適……リラックス……温度へと……固定……し、……使いの……者の……緊張を……解きなさい……!!」
セインの眼鏡が黄金色に輝き、玄関ホールの空気が「鳳凰の癒やし」に包み込まれた。
ハーフエルフの理知的な瞳が、使いの事務官が抱える「重大な報告」の重みを察知する。彼女の演算により、この場を冷静な交渉の場へと塗り替え、まずは相手をリビングへと誘った。
「……あはは、……やっぱり……あっちの……事務官さんが……うちの……最新式……トイレを……借りて……腰を抜かす……ほうに……銀貨……三枚……!! ……ねえ、……クレア……、……あたいが……依頼料の……上乗せ……吹っかけるか……賭ける……!?」
カノンが、銀靴の踵を鳴らして、不敵に口角を上げた。
回避タンクとしての勘。彼女は、持ち込んだ素材から自分たちの真価を読み取ったギルドが、わざわざ指名してきた裏にある、切羽詰まった事情を敏感に嗅ぎ取っていた。
私は、虹色の筋が走る**『銀竜の絆』**を手入れ用の布で覆い、落ち着いた足取りでドアを開けた。
「……お疲れ様です。……わざわざ……こんな……街外れまで……大変でしたね。……ちょうど……温かい……お茶が……入った……ところですよ。……さあ、……中で……お話を聞きましょうか」
私は微笑み、緊張で顔を強張らせた事務官をリビングへと招き入れた。
鳳凰の熱と氷鱗の冷気が生み出す、至高の空気。そして、王家さえも黙らせるであろう最新式の自動洗浄トイレ。
「最弱」と呼ばれた私たちの平穏な休息が、新たなる深淵への「招待状」によって揺らぎ始めるまで、あと一秒。
リトル・リンク、今日も(鳳凰の素材から実力を知ったギルドの依頼に溜息をつきながら、まずは最高のおもてなしで圧倒して)ちょっとだけ成長中。
第179話をお読みいただき、ありがとうございました。
三層の素材はまだ手元で暖炉に組み込んだばかりですが、以前持ち込んだ「鳳凰の熱核」の衝撃がギルドを動かしたようですね。王家紋章入りの「赤い封筒」。それは名誉か、あるいはさらなる過酷な試練の始まりか。
次回、事務官、快適すぎる我が家で依頼を切り出すタイミングを失う!?
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