第174話 氷湖の鼓動、沈黙する「水底」と蒼白の影
氷河の騎士が砕け散り、静寂が戻った広間の奥。そこには、これまでとは比較にならないほど巨大な、地下湖へと続く「氷の断崖」が待ち受けていました。
鳳凰のマントに守られた五人が崖の縁に立つと、眼下に広がるのは、厚い氷の層に閉ざされた、どこまでも深く、どこまでも蒼い「水底の世界」でした。
「……ふぅ。……お水。……こおってるのに……動いてる。……ミル、……心臓の……音……聞こえる。……ドクン……ドクン……一秒前。……これ……、……氷の……下……、……大きな……何かが……寝てる……」
ミルが、微かに発光する**『もう壊さない杖』**を氷の面に近づけ、耳を澄ませました。
吸血鬼の彼女には、氷の下を流れる魔力の「血流」が視えていました。この三層そのものが、巨大な生命体の揺り籠であるかのような、不気味な脈動が彼女の指先にまで伝わってきました。
「ガハハ! 冗談じゃないよ! アタシの『鳳凰の羽衣』が、今度は湿気と冷気の板挟みで悲鳴を上げてるじゃないか! ――セイン、この崖の下、ただ飛び込むだけじゃ凍りづけの干物になっちまうよ!」
ケットルが、**『巨大背負い袋』**から「潜水用の魔導レギュレーター」を取り出し、全員の首元に装着しました。
ドワーフの彼女は、水中での活動限界を延ばすため、吐息を熱源に変えるリサイクル回路を即座に構築。氷を砕き、その下の未知の領域へ挑むための準備を、一切の妥協なく進めていました。
「……論理的に見て、……氷層の……厚さは……平均……十二メートル……です。……構造解析……。……っ、……氷の……格子……状に……、……高密度の……神経……回路……! ……環境上書き……! ……私たちの……周囲の……圧力を……反転……させ、……氷を……内側から……爆砕……しなさい……!!」
セインが、眼鏡の奥で黄金色の「圧力相転移術式」を爆発させました。
ハーフエルフの理知的な瞳が、氷の下に隠された「三層の門」を特定します。彼女が放った術式により、鋼鉄よりも硬い氷の床が、まるでガラス細工のように音を立てて砕け散り、その下に隠されていた広大な「水底の空洞」が姿を現しました。
「……あはは、……やっぱり……あっちの……一番……深い……底まで……あたいが……泡より……早く……着く……ほうに……銀貨……三枚……!! ……ねえ、……クレア……、……あたいが……水中で……空中……一歩を……成功……させるか……賭ける……!?」
カノンが、銀靴の熱波スパイクを「ガツン!」と鳴らし、砕けた氷の破片と共に闇へと身を投げました。
回避タンクとしての機動力。彼女は水中に突入した瞬間、銀靴から放たれる熱を蒸気へと変え、その推進力で縦横無尽に泳ぎ始めました。
「……ありがとう、カノン。……みんな、……行こう! ……水底に……眠る……影を……、……私たちの……熱で……呼び覚まして……あげる!」
クレアが、虹色の輝きを放つ**『銀竜の絆』**を正眼に構え、水のカーテンへと飛び込みました。
鳳凰の加護を纏い、極寒の水底へと挑む五人。彼女たちの熱い絆が、今、三層の静止した心臓を激しく揺り動かし始めました。
リトル・リンク、今日も(氷の下に隠された未知の深淵へと、泡のように軽やかに、かつ熱く沈降しながら)ちょっとだけ成長中。
第174話をお読みいただき、ありがとうございました。
氷の世界を突破し、ついに舞台は「水底」へ!
セインの爆砕術式とケットルの潜水装備により、リトル・リンクは未踏の深淵へと足を踏み入れました。
水中でカノンの「空中一歩」は通用するのか? そしてミルが感じた「心臓の音」の正体とは……?
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