第149話 天空の静寂、雲海に潜む「多眼の監視者」
セインが空中に書き換えた「透明な階段」を、五人はケットルの命綱で互いを繋ぎながら慎重に渡り進んでいました。
カノンが囮となってクラウド・ゲイザーの群れを引き付け、その隙に本隊が次の巨大な浮遊島へと飛び移る。それは、この数層にわたる冒険で培われた、阿吽の呼吸による空中機動でした。
「……ふぅ。……ついた。……ここ、……静か。……ミルの……お耳、……キーン……て……してる。……変な……気配、……消えた。……でも……これ、……隠れてる……だけ。……いっぱい……見られてる」
ミルが、着地した浮遊島の瑞々しい苔の上に**『もう壊さない杖』**を突き、周囲を警戒するように見渡しました。
吸血鬼の彼女には、先ほどまで騒がしく飛び回っていた鳥たちが、一斉に鳴き声を止めて雲の合間へと姿を消した不自然な「静寂」が、何よりの警告として響いていました。島を囲む雲海そのものが、巨大な「瞳」となって自分たちを凝視しているかのような錯覚。
「ガハハ! 冗談じゃないよ! アタシの命綱のテンションが、さっきから妙に緩んじまってる! ――セイン、この島の重力、おかしくなってやしないかい? 足の裏がふわふわして、職人の踏ん張りがききゃしないよ!」
ケットルが、**『巨大背負い袋』**の重力アンカーを岩肌に打ち込み直そうとしましたが、火花を散らして弾かれました。
ドワーフの彼女は、岩盤そのものが魔力を帯びて「拒絶」の反応を示していることに気づき、即座にパチンコに「質量付加弾」を装填しました。
「……論理的に見て、……この……島自体が……感知装置……です。……構造解析……。……っ、……前方……二百メートル……! ……空間の……屈折率が……異常……です! ……環境上書き……! ……私たちの……視覚情報を……多重……位相へと……拡張……しなさい……!!」
セインが、眼鏡の奥で黄金色の解析術式を円状に展開しました。
ハーフエルフの彼女が術式を完了させると、何もないはずの空中に、巨大なカメレオンのように背景に同化していた「多眼の監視者」の姿が浮かび上がりました。それは、無数の瞳を不気味に蠢かせながら、一行を包囲するように触手を伸ばしていました。
「……あはは、……やっぱり……あっちに……賭けて……正解……だったねぇ!! ……ねえ、……クレア……、……あたいが……あの……お目目……全部……潰しちゃうほうに……銀貨……三枚……!! ……いくよぉ!!」
カノンが、銀靴の踵を苔の上で「カチッ」と鳴らし、同化した空間へと突っ込みました。
回避タンクとしての興奮。彼女は敵が放つ「石化の視線」を、空中での**「一秒の静止」**を挟むことで視線を逸らし、完全に無効化しました。
(……そこ……、……空中……、……一歩……!!)
カノンが空間を「ガツン!」と蹴り上げ、敵の死角へと回り込みます。彼女の動きは、もはや重力に縛られた地上のものではなく、空そのものを遊び場にするギャンブラーの軽快さを帯びていました。
「……ありがとう、カノン。……みんな、……怯まないで! ……見られてるなら、……見せつけて……やろう。……私たちの……絆の力を!」
クレアが、虹色の輝きを放つ**『銀竜の絆』**を正眼に構え、カノンが切り拓いた「視線の死角」へと踏み込みました。
かつての彼女なら、無数の瞳に見つめられただけで、己の弱さを突きつけられるようで動けなくなっていたでしょう。でも今は、その視線さえも「攻略すべき対象」として見据える強さがありました。
リトル・リンク、今日も(空中に浮かぶ巨大な瞳を真っ向から睨み返し、絆の力で深淵を暴きながら)ちょっとだけ成長中。
物語は第二階層の「空中庭園」という新たな局面を迎え、カノンたちの連携もより一層鋭さを増しています。
かつて路地裏で肩を寄せ合っていた「最弱」の彼女たちが、今では広大な地底の空を自由に駆け回っている姿に、筆者としても胸が熱くなります。
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