第142話 胞子の牢獄、迷宮の「回廊」を埋める叫び
螺旋の階段を上り詰めると、そこは視界を遮るほど濃密な、淡い桃色の胞子が充満する「中層エリア」でした。
壁一面に張り巡らされた菌糸が、まるで心臓の鼓動のように脈打ち、通路の形を刻一刻と変えていきます。迷宮そのものが意志を持って、侵入者を飲み込もうとしているかのようでした。
「……ふぅ。……くる。……あっち、……こっち。……オーガの……足音、……いっぱい。……でも、……いつもの……オーガ……じゃない。……もっと、……ドロドロ……してる。……これ、……可哀想……な……音」
ミルが、激しく拍動する**『もう壊さない杖』**を胸元に引き寄せ、四方の壁を睨みつけました。
吸血鬼の彼女には、中層に潜むマイコ・オーガたちが、過剰な魔力摂取によって肉体が崩壊し、菌糸と一体化しかけている無惨な光景が視えていました。それは生存のための進化ではなく、塔に取り込まれゆく「苗床」の末路でした。
「ガハハ! 冗談じゃないよ! 通路がさっきから勝手に閉まりやがる! ――セイン、こりゃあ迷路を解いてる場合じゃないねぇ! アタシのパチンコで、その壁ごと風穴を開けてやろうか!」
ケットルが、**『巨大背負い袋』**の側面から「腐食酸弾」をパチンコに装填しました。
ドワーフの彼女は、菌糸の壁が物理的な打撃を吸収し、すぐに再生してしまうことに気づき、組織そのものを壊死させる化学的な攻撃へと切り替えました。
「……論理的に見て、……この……階層自体が……一つの……胃袋……に……近いです。……構造解析……。……っ、……前方……百メートル……! ……オーガの……大軍が……通路を……封鎖……しています! ……環境上書き……! ……私たちの……位置情報を……胞子の……揺らぎに……同調……させなさい……!!」
セインが、眼鏡の奥で黄金色の隠蔽術式を扇状に放ち、一行の姿を「透明な胞子の塊」へと書き換えました。
ハーフエルフの彼女は、真正面からの消耗戦を避け、菌糸のネットワークを欺くことで、一気にオーガの包囲網を突破する知略の道を選びました。
「……あはは、……一秒……どころか……コンマ……一秒……! ……あたい、……この……ぐにゃぐにゃ……した……床……、……全部……踏み越えて……あげるよぉ!! ……みんな、……あたいの……残像に……ついてきて……!!」
カノンが、銀靴の踵を菌糸の絨毯の上で激しく打ち鳴らしました。
回避タンクとしての機動力。彼女はセインの隠蔽術式を纏いながら、オーガたちの股座や腕の隙間を、音もなく、光の筋となって駆け抜けました。
「……うん。……行こう。……この……迷宮を……抜けた先に、……きっと……答えが……あるはずだから!」
クレアが、**『銀竜の絆』**を鞘に収めたまま、カノンの背中を追いかけました。
かつての彼女なら、変化し続ける迷宮にパニックを起こしていたかもしれません。でも今は、セインの論理とカノンの速度が、出口までの最短距離を示してくれていました。
リトル・リンク、今日も(塔の胃袋の中を、仲間の知恵を道標にして駆け抜けながら)ちょっとだけ成長中。
第142話をお読みいただき、ありがとうございました。
中層は、もはや生き物そのものと化した「胞子の迷宮」でした。
セインの「同調隠蔽」とカノンの「超高速移動」のコンビネーションが、正面衝突を避けて中層を突破するスマートな冒険を演出しましたね。
しかし、迷宮の最深部――「王の間」が近づくにつれ、隠蔽さえも通用しない巨大なプレッシャーが一行を襲います。
そこには、アルゴスさえもが恐れた「真の変異体」が待ち構えているのでしょうか。
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