第141話 共鳴する心音、塔の「中層」へ続く螺旋の階
結晶甲殻を砕かれたマイコ・オーガが、光り輝く砂となって霧散していきました。
一行の目の前に現れたのは、塔の外殻をなぞるようにして上へと伸びる、巨大な菌糸が編み込まれた螺旋の階段でした。一歩踏み出すごとに、足の裏から心臓に直接響くような、塔そのものの「鼓動」が伝わってきます。
「……ふぅ。……ドクン、……ドクン。……これ、……塔の……音。……ミル、……この……リズム……、……どこかで……聞いたこと……ある。……あたたかい……けど、……かなしい」
ミルが、淡い桃色に発光し始めた**『もう壊さない杖』**を胸元に抱き寄せ、壁一面に広がる菌糸の血管を凝視しました。
吸血鬼の彼女には、この塔が単なる無機質な建造物ではなく、一種の「巨大な生命体」として活動しているのが視えていました。流れる魔力は血液であり、胞子は呼吸。そして中層から響くのは、誰かの呼び声のような規則的な旋律でした。
「ガハハ! 冗談じゃないよ! 足元がこんなにフカフカじゃ、踏ん張りがききゃしないねぇ! ――セイン、この上の階、……魔力の密度が異常だよ。アタシのパチンコのバネが、勝手に軋んでやがる!」
ケットルが、**『巨大背負い袋』**のベルトをきつく締め直し、階段の先を睨みつけました。
ドワーフの彼女は、周囲の金属製パーツが塔の魔力に共鳴して微細な振動を起こしていることに気づき、即座に絶縁用の魔導オイルを各部に塗り始めました。
「……論理的に見て、……中層……以上の……魔力……飽和度は……下層の……五倍……です。……構造解析……。……っ、……この……塔……、……上へ……行くほど……『時間の……流れ』が……歪んでいます! ……環境上書き……! ……私たちの……知覚……速度を……現実……世界と……同期……させなさい……!!」
セインが、眼鏡のブリッジを押し上げ、黄金色の術式を全員の足元に展開しました。
ハーフエルフの彼女は、塔の心臓部に近づくほど空間が濃密になり、意識が過去や未来へと飛ばされそうになるのを、緻密な演算で繋ぎ止めていました。
「……あはは、……一秒……どころか……コンマ……一秒……! ……あたい、……この……歪んだ……時間の中……、……誰よりも……速く……駆け抜けて……あげるよぉ!! ……ほら、……クレア……、……手を……繋ごう……!!」
カノンが、銀靴の踵を火花が散るほど激しく打ち鳴らしました。
回避タンクとしての機動力。彼女は空間の歪みを逆に利用し、一瞬で数歩先へ「跳ぶ」ような変則的な移動を繰り返し、仲間の安全を確認しながら階段を駆け上がっていきます。
「……ありがとう、カノン。……大丈夫。……この……塔が……何を……見せようと……しても、……私は……みんなを……信じてる……から」
クレアが、虹色の輝きを放つ**『銀竜の絆』**を握りしめ、カノンの手を力強く握り返しました。
かつての彼女なら、未知の恐怖に足を止めていたはずです。でも今の彼女には、自分の背中を預け、手を取ってくれる仲間がいます。
リトル・リンク、今日も(塔の鼓動を全身に感じながら、深淵の深淵へと足を踏み入れながら)ちょっとだけ成長中。
第141話をお読みいただき、ありがとうございました。
下層のオーガを退け、ついに菌糸の塔の中層へ。
そこは魔力密度が高まり、時間や空間さえも歪み始める異質な領域でした。
塔そのものが生きているかのような描写に、ミルが「かなしいリズム」を感じた理由とは……?
そして最上階(あるいは最下層)に待つ、オーガたちの「王」の影が、少しずつ形を成し始めます。
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