第136話 我が家の安らぎ、自動洗浄トイレと「温かな食卓」
石碑の光を通り抜けた先には、冷たいダンジョンの空気とは無縁の、リフェルナの街の柔らかな夜風が吹いていました。
迷宮の深部から一瞬で地上へ。その劇的な環境の変化に、五人は一瞬だけ眩暈を感じましたが、鼻をくすぐる「自分たちの家の匂い」が、すぐに心を解きほぐしていきました。
「……ふぅ。……かえってきた。……石畳、……安心……する。……ミルの……お家、……あそこ。……窓の……明かり、……ついてる」
ミルが、重い足取りで**『もう壊さない杖』**を突きながら、新居の玄関へと歩き出しました。
吸血鬼の彼女にとって、戦いの後の高揚感はすでに消え去り、今はただ、ふかふかのベッドと温かな栄養補給だけを本能が求めていました。
「ガハハ! 冗談じゃないよ! あの泥だらけの森を歩かずに済むなんて、魔法使い様さまの知恵だねぇ! ――さあ、早く中に入ろうじゃないか! アタシはまず、あのピカピカの自動洗浄トイレに直行だよ!」
ケットルが、**『巨大背負い袋』**を肩に担ぎ直し、玄関の鍵を開けました。
ドワーフの彼女は、どれだけ過酷な探索をこなしても、帰る場所があるという事実が、職人としての「次の鋭気」を養うことを誰よりも理解していました。
「……論理的に見て、……肉体の……疲労は……蓄積……限界……です。……構造解析……。……っ、……冷蔵庫の……食材……、……レバーと……生クリーム……残って……います! ……環境上書き……! ……キッチンを……戦場に……変えなさい……!!」
セインが、眼鏡の奥で残った気力を振り絞り、テキパキとエプロンを締めました。
ハーフエルフの精密な演算は、今やミルの栄養バランスと、みんなの空腹を満たす「最高効率の晩餐」を導き出すためにフル回転していました。
「……あはは、……一秒……どころか……コンマ……一秒……! ……あたい、……お風呂の……準備……全部……終わらせて……あげたよぉ!! ……一番……風呂、……誰が……入る……!?」
カノンが、銀靴の魔導回路を贅沢に使い、脱衣所から浴室へと風のように駆け抜けました。
回避タンクとしての俊敏性。彼女は仲間たちがリビングに腰を下ろす前に、湯気を立てる浴槽と、清潔なバスタオルを完璧に整え終えていました。
「……みんな、ありがとう。……本当の……パーティ……みたいだね。……ううん、……家族……みたい」
クレアが、**『銀竜の絆』**をリビングの武器掛けにそっと立てかけ、ソファに深く沈み込みました。
アルゴスとの決別。その心の重荷が消えた今、彼女が感じるのは、温かなスープの香りと、仲間たちの笑い声。それはどんな宝箱の中身よりも、今の彼女にとって価値のある報酬でした。
リトル・リンク、今日も(新居の快適さを噛み締めながら)ちょっとだけ成長中。
第136話をお読みいただき、ありがとうございました。
第二階層の激闘を終え、ついに「拠点」での本格的な休息回です!
自動洗浄トイレに一番風呂、そしてセイン特製のレバー料理。
死線を潜り抜けた後の日常こそ、彼女たちが「最弱」から脱却し、真の強さを養うための大切な時間ですね。
しっかり英気を養った彼女たちが、ポータルを通じて再び森の奥へ向かうのは……。
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