第134話 深淵の静寂、苔むした道に響く「足音」
洋館が崩壊した後の土煙が、地下の冷たい風に流されてゆっくりと消えていった。
あとに残ったのは、巨大な陥没穴と、そこを埋め尽くす無機質な瓦礫の山だけだ。かつての傲慢な主も、偽りの豪華な調度品も、今はもう地底の塵へと帰している。
「……ふぅ。……しずか。……おうち、……なくなった。……森の、……古い……におい……戻ってきた。……ここ、……もっと……深い……ところ……続いてる」
ミルが、土埃を**『もう壊さない杖』**の先端で払い、闇の先を凝視した。
吸血鬼の彼女には、洋館という「異物」が消えたことで、この第二階層本来の魔導の流れが正常に戻り、さらに深部へと続く道が口を開けているのが視えていた。
「ガハハ! 冗談じゃないよ! せっかくの掃除が台無しだねぇ! ――でも、見ておくれよ。あの瓦礫の奥、……変な石碑が立ってやがる。ありゃあ、ただの岩じゃなさそうだねぇ」
ケットルが、**『巨大背負い袋』**のストラップを締め直し、パチンコで瓦礫の隙間を指し示した。
ドワーフの彼女は、崩落した館の跡地に残された「古代の遺構」にいち早く気づいていた。それはアルゴスが館を建てる前から、この場所に存在していた、より根源的な地下の記録装置のようだった。
「……論理的に見て、……あの……館は……この……石碑の……魔力を……盗用……していた……ようです。……構造解析……。……っ、……これ……文字……じゃ……ありません。……座標……です……!!」
セインが、割れた眼鏡を魔法で応急処置し、石碑に刻まれた幾何学模様を凝視した。
ハーフエルフの彼女は、その座標が示す先が、この広大な森を抜けたさらに先――「湖」とも「空」とも取れる、矛盾した空間であることを読み取っていた。
「……あはは、……一秒……どころか……一生……かかっても……歩ききれない……くらい……広いねぇ……。……クレア、……あたい……どこまででも……ついていくよぉ!!」
カノンが、銀靴の踵を軽やかに鳴らした。
回避タンクとしての余裕。彼女はアルゴスとの戦いで得た確信を胸に、暗い森の奥へと続く獣道を、先陣を切って進み始めた。
「……うん。……行こう。……私たちの、……本当の……冒険は……これから……だもんね」
クレアが、**『銀竜の絆』**の重みを腰に感じながら、仲間の背中を追いかけた。
過去を切り捨て、一皮むけた彼女の横顔には、もう「お荷物」と呼ばれた頃の影はない。
リトル・リンク、今日も(地底の月の光を背に、未知なる深淵へと一歩を踏み出しながら)ちょっとだけ成長中。
第134話をお読みいただき、ありがとうございました。
洋館の跡地に現れた、謎の石碑と座標。
アルゴスが利用していた魔力の源は、この第二階層に眠る古代の遺産だったようです。
「座標」が示す次なる目的地は、森のさらに奥……。
果たして彼女たちの前に広がるのは、どのような幻想的な光景か。
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