第133話 崩落の洋館、瓦礫の先に差す「地底の月」
白亜の壁が、悲鳴のような轟音を立てて内側から弾け飛んだ。
アルゴスの怨念と自爆の魔力は、クレアの白銀の一閃によって霧散し、行き場を失った衝撃が建物の構造そのものを粉砕していく。天井から降り注ぐシャンデリアの破片。足元から崩れゆく豪華な絨毯。すべてが、偽りの栄華の終わりを告げていた。
「……ふぅ。……おうち、……壊れる。……ここ、……もう……おしまい。……カノン、……速く。……みんな、……連れてって」
ミルが、崩落の粉塵を**『もう壊さない杖』**から放った微かな風で払い、カノンの背中に手を置いた。
吸血鬼の彼女には、空間の接続が不安定になり、この館が元の「地下の闇」へと飲み込まれていくカウントダウンが聞こえていた。
「ガハハ! 冗談じゃないよ! せっかくの自動洗浄トイレも瓦礫の下かい! ――ほら、セイン! 計算はいいから走りな! アタシが後ろからパチンコで落ちてくる岩を砕いてやるよ!」
ケットルが、**『巨大背負い袋』**を揺らしながら、頭上から迫る巨大な梁を「徹甲弾」で粉砕した。
ドワーフの彼女にとって、欠陥品であるアルゴスの作った館など未練のかけらもない。ただ、大切な仲間を一人も欠かさずに外へ連れ出すこと。その一点に、職人の全神経を注いでいた。
「……論理的に見て、……脱出……ルートは……正面……三十二度! ……環境上書き……! ……空間の……歪みを……固定……しなさい……!!」
セインが、割れた眼鏡の奥で残った魔力を振り絞り、崩れゆく玄関ホールへ向けて「青い魔力の道」を敷いた。
ハーフエルフの精密な演算が、崩落の隙間からわずかに漏れる、外の「森の匂い」を嗅ぎ取っていた。
「……あはは、……一秒……どころか……コンマ……一秒……! ……あたいに……任せて! ……新装開店・カノンエクスプレス!!」
カノンが、銀靴の踵を火花が散るほど激しく打ち鳴らした。
回避タンクとしての機動力。彼女は五人を繋ぐように魔力の糸を展開し、崩れ落ちる瓦礫の合間を、銀色の流星となって駆け抜けた。
ドゴォォォォォン!!
背後で館が完全に崩壊したのと同時に、五人は再び、あの地下の森へと投げ出された。
立ち込める土煙の中、クレアは手にした**『銀竜の絆』**を鞘に収め、震える膝を押さえて立ち上がった。
「……みんな、……無事……?」
クレアの声に、四人がそれぞれのやり方で応える。
振り返れば、そこにはもう白亜の洋館はない。ただ、深く静かな森の闇と、天井に光る巨大な発光苔――「地底の月」が、彼女たちを静かに照らしていた。
「……ん。……クレア、……おかえり。……過去、……おしまい。……次、……いこう」
ミルの小さな手が、クレアの袖をそっと引いた。
過去を断ち切った彼女たちの前に広がるのは、より深く、より広大な第二階層の未知。
リトル・リンク、今日も(晴れやかな顔で、深淵の先へと歩き出しながら)ちょっとだけ成長中。
第133話をお読みいただき、ありがとうございました。
洋館編、完結です!
アルゴスという過去の呪縛を物理的にも精神的にも粉砕し、五人は再び第二階層の探索へと戻ります。
今回の戦いで、クレアは「守られる盾」から「信頼を束ねる剣」へと、確かな一歩を刻みました。
さて、瓦礫の先に広がるのは、より原生的な地下の脅威か、それとも新たな謎か……。
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