第131話 墜ちた栄光、禁忌の魔導と「帝国の影」
玉座から立ち上がったアルゴスの全身から、どろりと濁った紫色の魔力が溢れ出した。
その圧力は第一階層の将軍を遥かに凌ぎ、豪華な玉座の間の大理石を、足元からメキメキと砕いていく。かつてクレアを路地裏へと放り出したあの傲慢な瞳は、今や赤黒い充血に染まり、理性の欠片もない「力への執着」だけがそこに宿っていた。
「……ふぅ。……くる。……死神の、……鎌……みたいな……冷たい……風。……アルゴス、……もう……中身、……ドロドロ。……人間……じゃない。……ただの……壊れた……入れ物」
ミルが、激しく明滅する**『もう壊さない杖』**を胸元に引き寄せ、玉座の主を鋭く見据えた。
吸血鬼の彼女には、アルゴスの体内で「帝国の刻印」が心臓を握りつぶし、無理やり魔力を絞り出している無惨な光景が視えていた。それは力への渇望が招いた、生ける屍の末路そのものだ。
「ガハハ! 冗談じゃないよ! 自分の体にそんな不気味な細工をしてまで強くなりたかったのかい? アタシの職人魂が、そんな安っぽい改造品は認めないよ!」
ケットルが、**『巨大背負い袋』**の側面から「対人魔導中和弾」をパチンコに装填した。
ドワーフの彼女は、アルゴスの放つ魔力が周囲の空間を歪めていることに気づき、その供給源である「首筋の刻印」へと狙いを定める。
「……論理的に見て、……限界……突破……しています。……構造解析……。……っ、……彼の……細胞……一つ……一つが……魔導……爆弾の……ように……不安定です! ……環境上書き……! ……防御……術式……三重……展開……!!」
セインが、新調された眼鏡の奥で黄金色の光を爆発させ、クレアの周囲に幾重もの幾何学模様を浮かび上がらせた。
ハーフエルフの彼女は、眼前のアルゴスがもはや対等な「人間」ではなく、歩く災害であることを瞬時に理解し、全神経を味方の保護に集中させる。
「……あはは、……一秒……どころか……コンマ……一秒……! ……あたい……あの……紫の……炎……、……全部……置いて……いくよぉ!!」
カノンが、銀靴の踵を火花が散るほど激しく打ち鳴らした。
回避タンクとしての真骨頂。彼女はアルゴスが振りかざした大剣から放たれる「黒い衝撃波」を、紙一重の残像を残して回避し、そのまま玉座の背後へと回り込んで敵の注意を分散させる。
『――黙れ! 黙れ黙れ黙れ! 無能な盾だった貴様が、何故そんな力を持っている!? その剣を寄越せ! 私こそが、この地下の王に相応しいのだ!!』
アルゴスが咆哮とともに地を蹴った。人外の脚力が大理石を粉砕し、紫の炎を纏った大剣が、クレアの頭上から断頭台のように振り下ろされる。
「……違うよ、アルゴス。……力は……奪うもの……じゃない。……守るために……授かる……ものなんだ……!」
クレアが、虹色の輝きを放つ**『銀竜の絆』**を正眼に構えた。
地底竜の鱗粉が、彼女の静かな「怒り」と「慈しみ」に呼応し、刀身から溢れんばかりの白銀の奔流を噴き出させる。
ガギィィィィィン……ッ!!
白銀と漆黒。二つの魔力が真っ向から衝突し、玉座の間を激しい衝撃波が駆け抜けた。かつてなら一撃で吹き飛ばされていたはずのクレアの腕は、今やセインの魔力付与と自らの意志によって、微動だにせずアルゴスの暴力を受け止めていた。
「……私は……もう……盾じゃない。……あなたの……間違いを……断ち切る……剣に……なるんだ!!」
クレアの剣から放たれた白銀の魔力が、アルゴスの紫の炎を「浄化」するように包み込み、その巨躯を押し返した。
リトル・リンク、今日も(過去の元凶を、進化した絆の力で圧倒しながら)ちょっとだけ成長中。
第131話をお読みいただき、ありがとうございました。
かつて自分を「お荷物」と呼び、路意裏に捨てた男との直接対決。
しかし、その男はもはやかつての誇りすら失い、禁忌の魔導に身を落としていました。
クレアの『銀竜の絆』が放つ光は、そんな彼の「偽りの力」を真っ向から否定します。
第二階層、最上階の決戦はいよいよ最終局面へ!
「セインの三重展開防御が頼もしすぎるw」「クレアがアルゴスの攻撃を正面から受け止めるシーンに成長を感じる……」と思ってくださった方は、ぜひ下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして、応援いただけると励みになります!




