第130話 玉座の道化師、深淵を統べる「偽りの支配者」
「……ふぅ。……こわれた。……おっきい……鉄……、……ゴミに……なった。……でも、……奥の……部屋……。……死んだ……魚みたいな……においが……もっと……濃くなった」
ミルが、鼻をヒクつかせながら**『もう壊さない杖』**を構え直し、ゆっくりと開いた隠し扉の先を睨みつけた。
吸血鬼の鋭敏な感覚が捉えているのは、先ほどまでの「傲慢」な魔力に混じり始めた、もっと根源的な「腐敗」の気配だ。
「ガハハ! 冗談じゃないよ! 隠し部屋に黄金の玉座なんて、どこまで悪趣味なんだい! アタシのパチンコで、その金メッキを全部剥がしてやりたくなってくるねぇ!」
ケットルが、**『巨大背負い袋』**の重みを足で踏みしめ、パチンコの狙いを玉座の影へと定めた。
ドワーフの職人眼は、その玉座がただの椅子ではなく、この館全体の魔力を集束させる「装置」であることを即座に見抜いていた。
「……論理的に見て、……ここが……この……館の……心臓部……です。……構造解析……。……っ、……生命……反応……一人……! ……環境上書き……! ……その……姿を……現しなさい……!!」
セインが、新調された眼鏡の奥で黄金色の解析術式を扇状に放った。
ハーフエルフの魔力が玉座を包み込むと、それまで揺らめいていた影が凝縮され、一人の男の姿が浮かび上がった。
「……あはは、……一秒……どころか……一生……顔を……見たくない……相手だね……。……クレア、……やっぱり……あいつだよ……」
カノンが、銀靴の踵を低く構え、嫌悪感を隠さずに吐き捨てた。
玉座に深く腰掛け、不敵な笑みを浮かべていたのは、かつてクレアを路地裏へ放り出した男――元リーダーの**『アルゴス』**だった。
だが、その肌は死人のように青白く、血管が黒い浮き彫りのように全身を這っている。
「……アルゴス……。……どうして、……あなたが……ここに……?」
クレアが、**『銀竜の絆』**の柄を強く握り、一歩前に出た。
その瞳には、もはやかつての怯えはない。ただ、変わり果てたかつての「仲間」に対する、静かな悲しみと決意が宿っていた。
『ハハハ……、クレア。久しぶりだね。……どうして、だと? 力が欲しかったからだよ。お前のような「無能」を養うために浪費した時間を、私は取り戻さなければならなかったんだ!』
アルゴスが玉座から立ち上がると、その背後から巨大な「黒い翼」のような魔力が噴き出した。
第一階層のオークに刻まれていた「帝国の刻印」が、彼の首筋で赤黒く脈動している。
「……構造解析……。……非論理的な……魔力……増幅……! ……彼は……自らを……魔導……実験体に……捧げた……ようです……! ……人間の……原型を……維持して……いません……!!」
セインの叫びが響く。
アルゴスの手には、禍々しい紫の炎を纏った大剣が握られていた。
「……ん。……それ、……命を……削る……魔法。……ミル、……そういうの……大嫌い。……クレア、……あいつ……もう……中身……空っぽだよ」
「……わかってる。……でも、……終わらせなきゃ……いけないんだ。……私の、……過去を」
クレアが魔力を纏わせ、白銀の光を解き放った。
リトル・リンク、今日も(過去の元凶と対峙し、真の決別を刻むために)ちょっとだけ成長中。
第130話をお読みいただき、ありがとうございました。
ついに姿を現した洋館の主、アルゴス。
かつてクレアを追い出した彼は、自ら禁忌の魔導実験に身を投じ、人ならざる力を手に入れていました。
「無能」と見下していたクレアが、自分を超えていくことが許せなかった、あまりにも歪んだ執着。
地下迷宮の第二階層、そのクライマックスが始まります!
「アルゴスの自業自得っぷりが凄まじいw」「セインの解析が間に合わないほどの魔力って……!」と思ってくださった方は、ぜひ下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして、応援いただけると励みになります!




