第129話 白銀の一閃、盾を捨てた「肉壁」の逆襲
「……ふぅ。……おっきい。……鉄の、……油っぽい……におい。……でも、……怖くない。……クレア、……震えてる……けど、……それは……怒ってる……音。……ミル、……わかる」
ミルが、激しく拍動する**『もう壊さない杖』**を低く構え、ゴーレムの巨大な足元を鋭く睨みつけた。
吸血鬼の彼女にとって、鉄の塊に宿る擬似的な命ほど不愉快なものはない。
だが、それ以上に彼女を不機嫌にさせているのは、蓄音機から流れる「クレアを傷つける言葉」そのものだった。
「ガハハ! 冗談じゃないよ! こんなデカいもんを個人の書斎に隠し持ってるなんて、どんな成金趣味だい! ……安心しな、クレア! あんなポンコツ、アタシがバラバラにして鉄屑に変えてやるよ!」
ケットルが、**『巨大背負い袋』**から特製の「酸性溶解弾」をパチンコに装填した。
ドワーフの職人眼は、ゴーレムの関節部分に施された古い設計の甘さを、一瞬で見抜いていた。
それは、過去の栄光に縋り付く元リーダーの精神そのものを象徴しているようだった。
「……論理的に見て、……防御……一点張りでは……押し潰されます。……構造解析……。……魔力核は……胸部の……三層装甲の……奥……! ……環境上書き……! ……クレア、……その……『肉壁』という……言葉を……辞書から……消去……しなさい……!!」
セインが、眼鏡の奥で黄金色の術式を爆発的に展開した。
ハーフエルフの彼女は、クレアの背中にこれまでで最も強固な「加速」と「剛力」の付与術式を同時に叩き込んだ。
それは、補助魔法という名の、セインからの最大限の「信頼」の表明だった。
「……あはは、……一秒……どころか……コンマ……一秒……! ……あたい……あの……デカぶつの……腕……、……全部……結んで……あげるよぉ!!」
カノンが、銀靴の踵を火花が散るほど激しく打ち鳴らした。
回避タンクとしての本領発揮。彼女はゴーレムの振り下ろす丸太のような拳の合間を、銀色の残像となって縫うように駆け抜け、その注意を完璧に逸らしていく。
『ハハハ! 無駄だ! そのゴーレムは鋼鉄の塊だぞ! クレア、お前のなまくらな剣で何ができるというんだ! 大人しく私の足元で、以前のように盾を構えて震えていればいいんだよ!』
「……いいえ、……もう……震えたり……しないよ。……だって、……私は……もう……一人じゃないもん」
クレアが、**『銀竜の絆』**を正眼に構えた。
地底竜の鱗粉が、彼女の静かな闘志に呼応して、これまでで最も深い、そして温かな銀色の輝きを放ち始める。
(……みんなが、……私の……道に……なってくれてる。……だったら、……私は……全力で……振るうだけ……!)
クレアが地を蹴った。
セインの補助魔法を受け、彼女の体は重力を無視したような速度でゴーレムの懐へと飛び込む。
ゴーレムの巨大な掌が、彼女を握りつぶそうと迫るが――。
「……はぁぁぁっ!!」
クレアが放ったのは、防御ではない。
魔力を極限まで一点に凝縮し、刀身を「光の針」へと変えた、渾身の刺突。
**『銀竜の絆』**の先端が、ゴーレムの分厚い装甲を、紙細工のように容易く貫通した。
ガギィィィィィン……ッ!!
魔力核に直撃した光の刃が、ゴーレムの内部から暴走したエネルギーを噴出させる。
鋼鉄の巨躯が、内側から白銀の光に焼かれ、断末魔のような蒸気を上げて膝をついた。
「……これ、……私の……答えだよ。……私は……盾じゃない。……みんなと……進むための、……剣なんだから!」
クレアの叫びと共に、魔導ゴーレムは文字通り粉々に砕け散った。
蓄音機から流れていた嘲笑が、引き攣ったようなノイズへと変わっていく。
リトル・リンク、今日も(過去の亡霊を、白銀の一閃で消し飛ばしながら)ちょっとだけ成長中。
第129話をお読みいただき、ありがとうございました。
「肉壁」と呼ばれた過去との決別。
クレアが自らの意志で、守られるだけの盾を捨て、仲間と共に進むための剣として覚醒した瞬間でした。
仲間のサポートを全身に受け、迷いなく踏み込む彼女の姿は、もう「最弱」などではありません。
「セインの『辞書から消去しなさい』が痺れる!」「クレアの迷いのない一突きに涙したw」と思ってくださった方は、ぜひ下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして、応援いただけると励みになります!




