第127話 論理を超えた「一撃」、銀竜が裂く偽りの虚像
「……はぁ、……はぁ。……あいつ、……ミルの……次の……一手を……全部……知ってる。……魔弾を……撃つ……前に、……同じ……軌道で……相殺……される……」
ミルが、額に汗を浮かべながら**『もう壊さない杖』**を構え直した。
鏡のミルは、無表情のまま同じタイミングで杖を突き出し、全く同じ魔力波を放って相殺してくる。
吸血鬼の勘さえも、鏡合わせの自分相手では先を読み合われ、泥沼の消耗戦に陥っていた。
「ガハハ! 冗談じゃないよ! アタシがパチンコを引けば、あっちも同時に引きやがる! 空中で弾丸がぶつかって、一発も届きゃしないねぇ!」
ケットルが、**『巨大背負い袋』**の重みを支えながら、歯噛みした。
鏡の中のケットルは、彼女がいつか作りたいと夢見ていた巨大な魔導砲を構えているが、その発射の予動さえも完全に同期しており、お互いの攻撃を打ち消し合っている。
「……論理的に見て、……個人の……限界……同士では……永久に……決着は……つきません……! ……環境上書き……! ……術式……共有……開始……!! ……カノン、……今です! ……鏡の……私を……踏み台に……して……!!」
セインが、新調された眼鏡の奥で瞳を激しく発光させた。
彼女は自分と対峙する「鏡のセイン」の妨害を無視し、全魔力を仲間の補助へと回した。
ハーフエルフの計算が、鏡の偽物たちが「正面の相手」にしか反応できないというアルゴリズムの欠陥を見抜いたのだ。
「……あはは、……了解だよぉ! ……一秒で……あたいの……偽物……追い越して……あげる……!!」
カノンが、銀靴の踵を火花が散るほど激しく打ち鳴らした。
回避タンクとしての機動力。彼女は自分を狙う「鏡のカノン」の攻撃を紙一重でかわしながら、そのままセインの背後を跳び越え、無防備な「鏡のセイン」の側頭部へ竜の鱗の踵を叩き込んだ。
パリン、と硬質な音がして、鏡のセインの頭部がひび割れる。
「……え、……あたいが……あっちの……セインちゃんを……!?」
「……個別の……最適解は……複数の……不確定要素に……対応……できません……! ……次は……クレア! ……ミルの……背中を……借りなさい……!!」
セインの指示が、まるでタクトを振る指揮者のように戦場を支配した。
クレアは、自分と対峙する「漆黒のクレア」から視線を外し、あえて無防備な背中を晒してミルの側へと跳んだ。
「……ん。……クレア、……いらっしゃい。……ミル、……踏み台……になる。……これ、……ちょっと……重たい……けど……」
ミルが杖を横に構え、クレアの足場を作った。
その瞬間、漆黒のクレアが後方から斬りかかってくるが、そこにケットルの放った特大の魔導弾が割り込み、進路を強制的に逸らす。
「……はぁぁぁっ!!」
クレアがミルの杖を蹴り、空中へと舞い上がった。
上空から見下ろす鏡の回廊。
そこには、互いの「個」に囚われ、連携の乱れに対応できない偽物たちの無機質な姿があった。
「……私たちの……絆は、……鏡には……映らない……!! ……貫け、……『銀竜の絆』……!!」
クレアが空中で剣を振りかぶり、白銀の魔力を一気に纏わせた。
放たれた巨大な光の刃は、目の前の偽物ではなく、回廊の壁一面を埋め尽くす「鏡の本源」へと一直線に突き刺さった。
ガシャァァァァァン!!
地下の館を揺るがすほどの衝撃と共に、すべての鏡が蜘蛛の巣状に割れ、砂となって崩れ落ちていく。
実体を失った偽物たちは、叫び声一つ上げることなく、元の闇へと溶け込んで消えていった。
「……はぁ、……はぁ。……勝てた……。……私一人の……力じゃ、……あの……私に……勝てなかった……」
クレアが剣を収め、肩で息をしながら仲間たちを見渡した。
ボロボロになりながらも、その瞳には自分たちの「繋がり」への確信が宿っていた。
「ガハハ! 鏡の中のアタシに、大砲の作り方のヒントをもらっちまったよ! あんな悪趣味な幻でも、役に立つこともあるもんだねぇ!」
リトル・リンク、今日も(自分自身の最高峰を、五人の信頼で塗り替えながら)ちょっとだけ成長中。




