天気予報新聞(1)
業務多忙の影響を受け、間が空いてしまいました。週1万字くらいは問題ないと踏んでいたのですが、期末年度末などはペース維持が難しいところです。上手いこと立て直せればなのですが、まずはマイペースで進めます。
やってきたのは妹ギルド。勝手知ったる他人の家。家じゃないけど。
お兄ちゃん、何の悪巧みを持ってきたの?と言わんばかりに門番をこなす妹はスルーしつつ、いや、正解なのだがまとめて話すから落ち着け妹。
ギルドスペース、スペースといっても館なのでスペースとの言い方は若干違和感があるのだが、とりあえず溜まり場に付くと、ギルドマスターの平川かおりさんがわざわざ出迎えに出てきた。彼女は魔法職でしかも、特化はしてないものの炎系を主軸にスキルセットを組んでいる。ある意味、今回の魔法使い弱体化騒動の被害者その1であり、よって相談の当事者そのものといえる。
「いやー、まさか雨降ってこんなことになるとは。びっくりですよ。魔法打っても打っても効かないの。なので戦闘は大変は大変なのだけれど、逆になんだか面白くって。」
「平川さん、もしかして台風とか来ると盛り上がってしまうタイプですか?」
「分かる?小さい頃は、傘もって出て行こうとして良く怒られた。」
てへ、とでもいう表情で楽しそうに笑う平川さん。ちなみに大学の1年生である。親のたっての希望で通っていたという、共学が一般化したことで年々珍品扱いされるようになってきた女子高を卒業し、今は都内の共学の大学に通っている。さばさばときっぷのいい姉御肌で面倒見もいいことから気が付いたらゲーム仲間のリーダー役的に動くことが多くなり、今回はゲーム内でギルドマスターを拝命したとのこと。別に何も偉くはないんだけどねー、とか、高宮お兄さん、妹ちゃんからいろいろ聞いてるけどなにかあったら助けてね、とか後者についてはやや不安で不穏なことを口にしつつ奥の会議室に案内してくれる。
こちらから同席をお願いしたのは話が話なのでギルドマスターの平川さんとあざみさん、加えて一応流れ上というかなんとなく妹の雪。どうせ追っ払っても無駄に決まってるのだこの妹という生き物は。都合6人ということで1階の応接室的空間に通される。相談内容については、口外厳禁でお願いしているものの、特に人払いまではしていないので、その他ギルドメンバーはなんだか面白そうとのことから、何人か同席している。
「ところで、妹ちゃん貸してくれてありがとうね。お兄さんのパーティでゲームしててもよかったろうに。あと、βテストのアカウントも。幾つか伝手辿ったり関係者集めてみんなで応募してみたり頑張ったのだけれどやっぱり競争率高くてあんまり揃わなくて。大学でも学力足りてたらあちこち入れる世の中なのに何この倍率。代わりじゃないけれども、約束通り調査の手伝いは出来る範囲でやるので。」
そういえば、ゲームが始まってから話すのは初めてだったか。改めてお礼を頂くこととなった。プレイ前でのやりとりも各種メッセージなどの電子的なもので全部済んでいたので、そういえばこの話が持ち上がってから直接話すのも初めてになるのかもしれない。
「妹は始終連れて回ってるとこちらも大変なので、お気になさらず。むしろこちらが助かってます。」
「お兄ちゃんお兄ちゃん、私は子守の必要な子供じゃないのだけれど。」
「おお、間違っているというのなら証明して見せよ、妹よ。」
「中学生に証明問題を解かせては駄目ですよ。そういうムツカシイのは高校行ってからです。」
嘘つけ。数学得意なくせに。勢い余って半分高校範囲にもう突っ込んでるくせに。全国の文系男子の恨み(ただし代理怨念)を食らえっ!
「高宮、仲がいいのは分かったからさっさと始めるぞ。話すことたくさんあるだろ。」
兄弟バトルの発展しかかっていたところ、大塚に止められる。おっといかんいかん。妹をいじるなんていつでもできることは脇に置いて、ついでに妹自身も脇に置いて商売の話をしないと。
「こほん。えー。そうですね。
話というのは他でもありません。ちょっとばかり面白そうな商売を思いついたので、お手伝いをお願いできれば、いや、そうではないかな。是非一枚噛んで頂ければと思いまして。悪い大人のお誘いです。もっとも、ここにいるのは全員未成年ですが。」
「商売、といってもゲームとはいえ私たちは素人だし、そもそもあんまり時間は割けないけれども、片手間で出来るようなことなの?」
ギルドマスターの平川さんが問いかけてくる。そりゃそうだ。ゲームしたくてゲームに来てるのに宿題や家のお手伝いみたいなことになってしまったら面白くないに決まってる。
「お手伝いといっても、とりあえずは手間と言うほどかからないと思います。あざみさんに定期的に占いで天気予報の情報を教えて貰ってみんなに広げるのをやろうかと。ほら、リアルでも天気予報って大事じゃないですか。傘がいるとかお出かけどうしようとか予定変わることもありますし。」
「ほ~、なるほどね。そうか、攻略情報を売る訳だね。」
さすがギルドマスターなどをしてるだけのことはある。気づくのが早い。どこかの涼音さんとは大違いだ。涼音さんは天性じゃないかとたまに思える取引感覚があるのに、ロジカルな面は割と反応が鈍い。鈍いけれどもやっていけてるのが凄いことの証明ではあるけれども、鈍さとの対比が面白いのでアイドル的に皆のおもちゃにされている。とはいえ、当事者のひとりなのにどうもピンと来てないあざみさんと理解しようとすらしてない妹がいることも考えると、あれだけで気づくのは平川さんが例外ということか。当事者Aであるあざみさん向けに若干の補足を加える。
「平川さんは何をしようとしてるか大枠もう分かってるみたいですが、このゲームは天気が変わると魔法やスキルの効果が変わることが、ついこの前わかりました。その他、地形効果など、細かくは分かってませんが戦い方が変わったりモンスターの出現パターン、それぞれの強さも若干変わってくる様子です。つまり、雨が降ったら、リアルのような傘がいることにはならないけれども、水系への環境変化を踏まえての攻略体制が必要な訳です。まだ明らかにはなってませんが、おそらくは水以外の環境変化もあることでしょう。
もちろん、環境変化をあまり気にせずに力押しで突き進むのもありはありですが、いまのゲームバランスと難度を見ていると少しハードルが高いです。力押しではない攻め方で遊んでほしいとの開発側の意図ということなんでしょうね。そういうゲームだということです。つまり、このゲームは状況の変化に対して自分たちの戦い方やスタイルを合わせていくか、というSLGに求められるタクティクスのような戦略性をMMORPGに応用させてきたということになります。」
「そっか。雨が降ると事前にわかっていたら助かりますよね。装備変えたりもできるかもしれないし。そもそも行先変わるかもしれないし。」
あざみさんも基本のところは分かった様子。頷くことで理解が合っている旨を伝えつつ話を続ける。
「その通り。実際、雨が降って町で足止めやお留守番をしている魔法使いが結構な数いました。もちろん、一部はジョークプレイでしょうけれども、普通に足止めされている人もいました。また、何よりもいい証拠になるのがスクロール屋に人だかりが出来ていたことです。集まっていたのが魔法使いだけなのかは分からないですが、天候によりスキルチューニングが影響受けているのは確かです。
例えば、明日から雨になると分かっていてどこか攻略に出かける場合、雨の影響を受けないスキル構成に見直すかどうか。事前の準備の仕方や考え方も変わります。そもそもでいうと、天候変化の影響を受けにくいスキルを軸にキャラクターを育てるのか、特定属性、特定環境での相性と爆発力を大事にするか。
逆に、天気情報を仕入れずにトラブルアクシデント上等で楽しむプレイスタイルもあると思います。あるいは、こちらの方が効率を忘れるともっとも楽しめるプレイスタイルかもしれませんが。」
ギルドマスターの平川さんは想定していた理解と合っていたのを確認した風であったが、その他のギルドメンバーが興味深そうに身を乗り出して耳を傾けていた。攻略の考え方、ゲームの楽しみ方が変わるあたりへの興味だろう。
「とはいえ、占い師スキル持ちが一人しかいないとはさすがに思えませんし、天気予報の情報出すからお金払え、というのもちょっと芸がないです。実際、リアルでも天気を知りたいのにお金出すということはありませんよね?」
「朝出かける前にニュースと一緒に見たり、オンラインで気になったらしたりというのが普通だな。となると、商売としてはどうするの?」
平川さんから質問が出る。よし、いい流れだ。
「だから、天気予報の情報そのものは売り物にしません。欲しい人は言ってくれれば見れるようにして、その代わりにメディアを作ります。そうですね。天気予報新聞とでも呼べばいいでしょうか。割とどこにでもあるもの、専門的にはコモデティと言いますが、コモデティ情報である天気情報を直接売り物にするではなく、情報の流通ルート、経路を抑えに行くことが狙いです。
鍛冶でもポーションでも、お店のことをもっと知ってほしい、新製品が出来たのでお知らせしたい、というプレイヤーは絶対いますよね。攻略する側も性能のいい武器やポーションについての情報はあって損はしないはずです。分かりやすくは、広告を出せるようにします。」
「わぁ、なるほど。それは便利そうですね。欲しいです。」
素直に褒めてくれるあざみさん。うんうん、実にええ子や。ウチの涼音さんと交換したいくらいや。
「うん、分かった。面白そう。さっきの通り出来る範囲で、とはなるけれども一枚噛みたい。他のみんなもいいよね?」
ギルドメンバーを見回して平川さんが声をかける。スイーツの情報とか集まってくるといいよね、新しい装備なんかも知りたいよね、などと話しつつ三々五々同意の声を挙げる各メンバー。
「それで、占いというか天気情報を伝えるのはいいとして、何か出来ることあるの?」
何かスイッチが入った風の平川さん。若干テンション高めに弊社涼音さんと良く分からない握手を交わしている。契約かよ。
「そうですね、サンプルとパンフレットを作って置いていきますので、手の空いてるときに配って貰えるとありがたいです。諸々手伝って貰う代わりに上がりの一部はお渡しすることとして、実はもう一つ話が。」
もう一つ?と小首を傾げる平川さん。うん、その感じも悪くない。




