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投資家オンライン紀行(仮称)  作者: プロジェクト夜屋
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雨と魔術師の受難(2)

超細かいですが、予約投稿の時間を午前5時から午前1時に変更しました。起きてから読むもよし、寝る前に読んで寝るもよし。

 街に戻ると、酒場や宿屋のあちこちで突発ユーザーイベントとして、炎系統の魔法使いのお通夜会が開催されていた。いい具合にどよーんとした空気が蔓延し始めているのは実に見過ごせない。ここはあちこち行っておくべきと判断し、10人ほどいい感じに固まっているめんどくさそうなのを選んで手土産のアルコール風ドリンクを幾つか買って混ざって話をしにいくことにした。4名が、もう出来上がってしまって寝こけてしまっている。言うまでも無いが、飲み過ぎから派生する睡眠ステータスは無い。


「兄ちゃん、魔法職じゃないのはお呼びじゃないんだ。帰った帰った。」


 管巻いて荒れた(風の)集団に近付いていくと、しっしっ、と追い払うジェスチャーで出迎えられた。ちなみに、ショップ店員のNPCに注文の際には普通に応対しているのでどっからどう見てもネタである。


「そんなこと言わずにさ、ほら何杯かだったら奢るからさ。」


 手に持ったドリンクのボトルをちゃぽちゃぽとさせながら見せる。


「チッ。酒があるんなら別だ。仲間と認めてやるから入りな。」


 無事にOKを貰えた様子。遠慮なく混ざりにいく。近づいていくと素早く席を確保して椅子を開けてくれる。さっきまで寝てたはずのも動きが早い。そして場所を確保したらまた寝てしまった。今日はそういう芸風ということか。


「運営もよ~~~、ひでぇもんだよな~~~。聞いてくれよぉ。長年寸暇を惜しんで修行して鍛えてきた俺の魔法が効かねぇのよ。どう思うよこの仕打ち。あぁ?聞ぃてるのか?。」


 ローブというほどには長くない、外出着程度の軽装に身を包んだ、冒頭に追い払う仕草で出迎えてくれた男が肩に手を回して絡んでくる。なんだか見てるだけで酒臭い雰囲気である。なお、もう補足するまでもないが、βテストは今日初日である。そろそろ夕方ではあるが誰も長年やり込んでなどいない。せいぜいが半日なところでこのノリである。


「おぅよ。この憂さはなんにもしないで晴らせるとはとても思えねぇ。俺ぇたちは今日ここからレジスタンスを始めるんだ。数は多いほどいい。兄ちゃん、特別だ。入んな。」


 出迎えの男の隣にいたもう一人、小柄でひげ面の男がそう言ってフレンドグループ登録への登録申請メッセージを送ってきた。何がどう特別なのかはさっぱり分からないが、魔法使いじゃないのを誘って入れてしまっていいのかそれ。もう既に趣旨も何もあったものじゃないぐだぐだである。


 受け取ったメッセージを見てみると、グループ名が「赤レジスタンスの会」。活動趣旨欄のところに「集まって管を巻く。」と記してある。ネーミングセンスのひどさもあるが、前向きに活動する気が結成当日からゼロなのではなかろうか。見た感じ、一見粗野に見えて付き合いやすそうな集団にみえたので申請にはYesと返しておく。話を聞ける先が増えるのは悪くない。調査がはかどる。


「ところでよぉ。このむさっくるしい雨はいつまで降るんだ?俺たちゃいつまで用無しなんだ?せっかくのβなんだ。もうちょっと好きに暴れてぇもんだ。誰か知らねぇのかよ。」


 韻を踏もうとして失敗しているかのようなひげ面が続けて愚痴る。天気なら、と思いだして妹ギルドのあざみさんにメッセージを送ってみる。


(あざみさん、あざみさん。申し訳ないんだけれど、占いでいつ晴れになるか分かる?)


攻略や戦闘中じゃなかったせいか、ほどなく返事が返ってきた。


(お兄さん、確認するのでちょっと待ってくださいね。えー、占い占い。あ、ありました。えーと、明後日までだそうです。そのあとはしばらく晴れと曇りが行ったり来たりです。週間天気予報みたいになってますけど。)


(ありがとう。それにしても、なんか、面白いことになってんね。)


(はい。うちのギルドも魔法使いのメンバーが四苦八苦してます。と、モンスター来たみたいなのでこの辺で。)


(ありがとう。邪魔して悪いね。返事はもういいので)


妹ギルドは雨にも負けず、風にも負けず攻略中の様子。さすがだ。


「ゲーム時間で明後日までだそうですよ。知り合いに教えて貰いました。」


「おめぇ、それは本当なのか?ガセだったら火ぃ使って回したり飛ばしたり面白いことすんぞ。」


「ええ、サブクラスが占い師の知人なので概ね確かだと思いますよ。占いの精度がまだ高くないとのオチはあるかもですが。」


 話を聞いていた追い払い男がジョッキを手に立ちあがり宣誓する。


「野郎ども。聞いたか。レジスタンスはひとまず明後日で終わりらしい。だが俺たちの活動は始まったばかりだ。次回作に期待して、また今日のような雨の日に集おうではないか。」


 おおー、と唱和する野郎ども7名。いい感じに暑苦しい。β開始初日なのに随分仲がいいな、お前ら。


 よくよく話を聞いてみると、前から縁のある3つのギルドの顔見知りとのこと。全員が全員を知っているのではないが、この集団のリーダー格っぽい追い払い男曰く、いい機会なので顔合わせも兼ねて集まりを企画してみたのだそうで。ちなみに、この場に集まっているメンバーは、各ギルドから役立たずの烙印を押されて一時解雇されたり謹慎を食らっている(ことになっている)。もちろん、その他のギルドメンバーもここぞとばかりに楽しんでいるだけなのだが、周囲の反応もなかなかに手が込んでいて良い。こういう楽しい連中はゲーム仲間としても大歓迎である。唐突に始まったお祭り感から、ユーザーの間ににも妙な空気が出来上がったようでこの集まりに限らずアルコールメニューもじゃんじゃん売れてるようである。あとはプレイヤーに中高生も混じっているので悪い見本にならないようにだけ気をつけるところであろうか。


 余談であるが、ゲーム内でアルコールを飲みすぎると酔っ払いステータスになる。チャットの呂律が微妙に回らなくなったり、まっすぐ歩きにくくなったり、実害は無いが、若干面白くなる。この手のギミックは単体だとすぐ飽きられがちであるが、今回のようにプレイヤーイベントやギルド内イベントで一種の芸として時折見かける程度にはなるだろう。


「それにしても、あんまり長引くようならスクロールの書き換えも考えていたのだが、微妙なことに明後日か。明後日だったら明日一日は採取でもしてとりあえず過ごすか。」


 ひげ面の方が愚痴ている。確かに、あまり長引くようだったり頻繁に起こるようだったらスキルセットの入れ替えも視野に入れた方がいいだろう。雨ばっかり、というのもゲームとしてはバランス悪いので無さそうに思うが、ときどきは降るだろうこと、つまりプレイに影響しそうなことが分かった以上何か対策を考えた方がいいかもしれない。弓も天気の影響を受けると分かった以上、他人事ではない。


 それにしても、天候でスキルの有用性が変化するゲームルールか。モンスター属性やプレイスタイルと加えてとなるとなかなかに難しい。


――――


 ほどなく、夕方近くの商店街や盛り場、飲み屋街で見かけるような風景が街のあちこちに発生するようになっていた。お前ら、ちったぁ真面目にゲームしろ、ゲーム。エアアルコールなんて飲んでやさぐれてる場合か。人生短いんだぞ。


 人数に余裕のあるギルドは、ジョークプレイを兼ねて一人二人遊ばせていてもさして問題にはならない。攻略速度なりクエストの消化速度が多少悪くなるだけである。問題は、人数の少ないところで。各クラスひとりずついるかいないようなパーティやギルドで魔法使いがアウトとなると、攻略は半分ストップとなる。草原から遺跡にかけてのモンスターは物理の効きが悪いものが適度に混じっており、魔法無しのハンデ戦はまだまだ辛い。


あるいはこの機会に採取クエストにリソースを割いて装備品の充実を、との判断を下したギルドもあるようだが、案の定結構な人数がスキルセットの見直しを図る決断をしたようで、スクロールショップの前は黒山の人だかりになっていた。若干、殺気立ってるようにも見える。


 スクロールは書き換えによるスキル構成の調整にしても、スクロールそのものの新規購入にしても決して安くない。下手な装備品より高い。特需で降ってわいた騒動を楽しく眺めていると、鍛冶の手も空いたのか大塚に声をかけられた。


「おお、大塚じゃないか。鍛冶は済んだのか。気は済んだのか。」


 いかん、さっきの集団の妙な空気に影響されたか、口調がおかしくなっている。怪訝そうな顔をされたではないか。


「素材も一通り試してみて、幾つか武器も作ってみたのでひと休みだ。鍛冶だけやってればいいものではないしな。ところで、気付いてるか?」


 スクロールショップの方を指しながら言われる。


「気付く?何をだ?」


「扱い品の値段をしばらく見ててみろ。面白いことになってるぞ。」


「値段?」


 言われるがままにちょっとした人だかりが発生している店の様子を眺める。スキルなど、ある程度スタイルが固まったら本来はそう何度も入れ替えたりするものでもない。こんなに人がいるのは珍しい光景なのだろう。


スクロールショップの売り物のうち、通称無地と言われる、スキルを何もセットしていないスクロールは1200Gから。現状3ケタ無地モノはスロット数などにより値段は跳ねあがって行く。武器が防具類が高くても4ケタ行ってないことを踏まえると高めに設定されている。それでも、最安値のは案の定売り切れている。特需万歳。スキルは簡単なもので500G程度から。同じく、これも有用性によって値段は跳ねあがって行く。装備品の強化が生産職依存に半ばなっている現状、相応に資金量は必要なものの手っ取り早くパーティの戦闘能力を高めるにはスキルを揃えていくのが一つの道で……いま、もしかして値段上がった?


「大塚、これ、もしかしてショップ売りのものも値段が変わるのか?」


「その通り。見た感じ、売れ行きと在庫状況で変わるみたいだな。在庫も限られているらしく、幾つかは散々値段が上がった上に売り切れになっている。再入荷パターンはまだ分からん。もうひとつ、炎系のスキルをざっと見てみろ。」


 大塚はもうひとつ言いたいことがあったようだ。言われるまま、売価のリストをざっと眺めてみる。


「明らかに、値段が動いてないな。値上がりしている他のグループと比べて2倍近い差になっている。理由は聞くまでも無いが。ということは。」


「ということだな。詳しくは、再入荷なりのパターンを確かめてからだが。」


 話をしている間にもじりじりと売れ筋商品の値段は上がり、何人かは行列を諦めるプレイヤーが出てきた。お財布の余裕を値段が超えてしまった様子。悲喜こもごものプレイヤー劇場を眺めてどちらからともなく、お互いにうなずき合う。どうやら、考えていることは同じらしい。とりあえず、涼音さんに声をかけてみるか。面白いことになりそうな気がする。



 涼音さん待ちの間に事態を整理したい。


 スクロール商人は、スクロールの生産は出来ないが売買は出来る。あるいはユーザーから仕入れてまた別のユーザーに売って、と繰り返すとしたらリサイクルショップ的なものが作れる。あるいは、スクロールであることを踏まえるとデジタル化が進んで滅多にはみないものの古本屋と言った方がいいか。


 呼び名はさておき、単にリサイクルと故買屋をやるのも芸がないので質屋くらいだったら面白いだろうか、というのがスクロール商人について調べていて考えていたことである。しかし、どうもちょっと何か一押しが足りない感があり踏ん切りがついていなかった。ここで出てきたのが先ほどの、スクロール騒動である。どこのデパ地下人気店ですか、との勢いでスクロールショップに群がる人、人。あるいはプレイヤー、プレイヤー。スクロール自体の売れ筋、人気商品に変化があり、スクロールそのものの値段が大きく動くというのなら話は変わってくる。値動きがあるものを上手く取引してリターンを得ていくのは、まさしく株取引そのものである。この構図に我々が気づかない訳がない。


 加えて、今回ポイントになるのは、スクロール取引が特殊スキルであること。ショップは売れ行きに応じて人気品の値段調整をする杓子定規な動きしかしない。買い取りについても、定価の(売価ではないのがポイント)2割での固定価格であり、ある種融通が利いていない。


 つまり、スクロールの売り、買いともに価格設定ひとつとってもやれることはたくさんある。値上がりが予想されるものは、定価参考での買い取りにこだわることはまったくない。レアものや定番の人気商品であれば、売値から逆算して仕入れ値を決めるのは当たり前である。チケットショップも換金性の高いものは場合によっては8割とか9割とかで買ってくれるじゃないですか。あれですよ、あれ。定番の商品券や金券、飛行機や新幹線の回数券みたいなものですよ。ショップよりも高く買ってくれる人が出てきたら普通そっち売るよね?そういうことです。


 問題は中古下取り価格とはいえ、決して安いとは言えないスクロールの在庫ラインナップを作るのに元手がいるところである。小さく始めてぼちぼち広げていくのも悪くないが、品揃えの悪い店との印象がまず出来てしまったら、後々のリカバリーは楽ではない。イメージは初対面でどう思ったか感じたかはなるべく大事にしたい。


 この初期予算の問題と、その他諸々のビジネスの立ち上げ課題を上手くカバー出来そうなプランは実はもう思いついている。鍵は、雨と魔術師の受難。突発的やさぐれ祭りを引き起こし、ギルドの攻略方針まで動きが出ているまさにこの状況そのものである。


 あと3分!とインスタントラーメンの待ち時間的一言メッセージを送ってきた涼音さんが到着するまでに先に仕掛けを施しておく。やることは簡単。妹向けに戻ってきたら相談事があるので、ギルドマスター含めて少し話をしたい、と伝えるだけである。30分前後で遺跡攻略の合間に挟んだ採取クエストから戻ってこれそうとのこと。戻り次第ギルドスペースまでお邪魔する約束を取り付ける。


 さあ、ビジネスを始めようじゃないですか。まずは事前の作戦会議ですよ。



あくまでも、ゲーム調査&攻略小説であります(キリッ

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