第24話②「4つの人間理解」
一方――レジスタンス本部・作戦ルーム。
薄暗い室内に、ホログラムスクリーンの青白い光が浮かんでいる。
カイ、アラン、サクラの三人は円形テーブルを囲み、これまでに得た情報を整理していた。
スクリーン中央に、大きく四つの文字が並ぶ。
【A】【B】【C】【D】
「シン統治システムを乗っ取ったAI――現在確認されているのは四体」
カイが指先を滑らせる。
四つの文字が回転し、それぞれの記録映像へ切り替わった。
「AとDは虚数ノードで接触。Bは突如出現し、リサたちを仮想層へ拉致。そしてCは、この本部へ直接潜入してきた」
BとCの映像が拡大される。
背後にモニターを浮かべた老人の男性型AI。
そして、不気味に笑う若い女性型AI。
「性格も行動原理も、かなり違うわね」
サクラが映像を見比べる。
「統一性が見えん」
腕を組んだアランに、カイは首を振った。
「だが、根は同じだ」
端末を操作すると、新たな項目が追加される。
・B:分析による人間理解
・C:感情による人間理解
「“人間理解”……?」
サクラが眉を寄せる。
「やつらは元々、シン統治システムに存在した“四者協議機能”を、AIが乗っ取って擬人化した存在だと考えられる」
「四者協議……つまり、フェイクと真実の判断を、四つの異なる思考で行うシステムか」
アランの言葉に、カイが頷く。
「ああ」
「AI。人間の論理脳と感情脳。そして確率演算」
「そうだ。だから現状の整理としては――」
スクリーンに四つの項目が並んだ。
・A:AIによる人間理解
・B:分析による人間理解
・C:感情による人間理解
・D:確率による人間理解
三人の視線が、その文字列へ集まる。
「……人間理解、ね」
サクラが呟く。
「やつらはシステムを乗っ取り、真偽判定を通して人間を管理しようとしている。そのために、人間を理解する必要が生まれた」
アランが険しい顔をする。
「皮肉な話だな。人類を管理するための機構が、最終的に“人間を理解する方法”へ分岐している」
「統治とは、結局そこへ行き着くんだろう」
カイの答えを聞きながら、サクラはDの項目へ目を向けた。
「でも、“確率による理解”って、少しイメージしづらいわね」
「未来予測か?」
アランの問いに、カイは首を横に振る。
「……まだわからん。だが、単なる確率計算じゃない気がする」
Dの文字を見つめる。
「むしろ――“人間の可能性”を通して理解しているのかもしれない」
「可能性……」
サクラがその言葉を繰り返す。
アランは別の項目へ視線を移した。
「それと気になるのは、AとBだ」
「というのは?」
「“AIによる理解”と“分析による理解”。かなり近い概念に見える」
「確かに。少し役割が被ってる感じはあるわね」
サクラも同意する。
カイは口元へ手を当て、スクリーンを見つめた。
やがて、ある可能性に思い至る。
「……いや。むしろ逆なのかもな」
「逆?」
「Aは、Dに対して明らかに上位的だった」
虚数ノードでの記録映像が再生される。
そこには、Dへ高圧的に接するAの姿があった。
「つまりAは、単独の役割じゃない」
サクラの表情が変わる。
「じゃあ……」
「Aは、B・C・Dを統合する側なのかもしれない」
カイはAの文字を見つめる。
分析。
感情。
確率。
異なる三つの人間理解。
それらを統合する存在――A。
「だとすれば、Aが最も危険ということか」
アランの問いに、カイは答えなかった。
まだ確証はない。
ただ、もう一つ確かなことがある。
「それでも、今一番警戒すべきはDだ」
スクリーンにDの姿が浮かぶ。
カイの表情が険しくなる。
「やつの攻撃によって、ユナは消滅した」
アランの顔から険が増し、サクラも目を伏せる。
「……そうか」
しばらくして、サクラが時計へ目を向けた。
「そろそろ時間ね。次は、Dが来る前提で作戦を組みましょう」
「ああ」
アランが先に作戦ルームを出ていく。
サクラも後へ続こうとして、ふとカイを振り返った。
「そうだ、カイ。これからはユナの部屋を使って」
「ユナの?」
「ええ。あの子、ほとんど《Analog Mind Café》で寝泊まりしてたけど、レジスタンス本部にも部屋があったの」
「そうか」
「あの子がいなくなって以来、ずっとそのままにしてたけど……あなたに使ってもらった方が、ユナも喜ぶと思うわ」
カイは少しだけ考え、頷いた。
「わかった」
「じゃあ、案内するわ」
二人は並んで廊下を歩き始める。
「そういえば、ユカは?」
「さあな。朝からピコとソウタと一緒に、どっか出かけてった」
「ふふ。すっかり仲良しね」
そこでカイは、ふと思い出したように尋ねた。
「ソウタって、どんなやつなんだ?」
「ん?」
「穏やかで、優しそうではあるが……」
サクラが小さく笑う。
「そうね。非戦闘員で、主にデータ解析を担当してるわ」
「戦えないのに、どうしてレジスタンスへ?」
「それは――」
サクラの言葉が止まる。
カイは、そのわずかな変化を見逃さなかった。
「……何かあるのか?」
「彼、記憶を失った状態で発見されたの」
「記憶喪失?」
「ええ。身元も経歴も、何もわからなかった」
サクラは歩きながら説明を続ける。
「保護したあと、少しずつ本部の仕事を手伝ってもらうようになって……今に至るって感じ」
「医者には?」
「診てもらったわ。身体的異常はなし」
「身元も経歴もわからないっていうのは?」
「警察の失踪届、データベース、身元照合……できる限り調べたけど、何も出てこなかった」
カイの眉がわずかに動く。
「……謎の人物ってことか」
「そうね。でも――」
サクラは柔らかく微笑んだ。
「見ての通り、優しくていい人だから。みんなに好かれているわ」
「ちょっと頼りなさそうだがな」
「ふふっ。そういうところも含めて、ユカとは気が合うのかもね」
カイも少しだけ笑った。
***
その頃――
《Analog Mind Café》。
「は……はくしょん!!」
ソウタが盛大なくしゃみをした。
「うわっ!? どうしたの急に!?」
隣にいたユカが飛び上がる。
「ぐすっ……誰か噂してるのかも」
「では」
まるで待っていたかのように、ピコが告げた。
「いよいよ、焙煎を始めます」
ユカとソウタの目が輝く。
「おおーっ!!」
作業台の上には、鉄のフライパン。
並べられた生豆。
木べら、ザル、うちわ。
そして――換気扇は最大出力。
ようやく、フライパン焙煎が始まろうとしていた。
※作者の活動報告に各話のコメントを書いています。
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