第23話③「ユカのカフェ再開大作戦!」
ユカはカウンターの中へ入ると、興味津々で店内の機器を触り始めた。
コーヒーミル。
古いエスプレッソマシン。
木製の棚に並ぶカップ。
「わぁ……」
そっとカウンターを撫でる。
「ちゃんと残ってるんだ……」
ピコがふわりと近づいてきた。
「ユカ、それで何をするつもりなのですか?」
「んー……」
ユカはカチャ、とスイッチに触れる。
「このカフェ、もう一回やろうかなって」
「ええぇーっ!?」
ピコとソウタの声が重なった。
「えっ?」
ユカがきょとんとする。
「私、変なこと言った?」
ソウタが慌てて身を乗り出す。
「いやいやいや! ユカちゃん、まだ7歳だろ!?」
ピコもすかさず続ける。
「店舗経営には、衛生管理、在庫管理、金銭管理など多くの責任が――」
「うっ」
「あと、未成年労働についても、法的観点から問題が――」
「なんか急に難しい話きた!」
「ていうか、普通に危ないって!」
ソウタにも止められ、ユカはぶんぶん手を振った。
「ち、違うよ! 別にお店として営業したいわけじゃなくて!」
少しだけ視線を落とす。
「みんな疲れてる時に、コーヒーとか出せたら、いいなぁって……」
窓から差し込む木漏れ日が、カウンターを照らしている。
ユカは店内を見渡した。
「ここって、なんか落ち着くし……こういう場所、なくなっちゃうの、もったいないなって」
ピコがユカを見つめる。
「ユカはまだ子どもです。そんなこと、気にしなくてもいいんですよ」
「やだ」
即答だった。
「絶対カフェやるの!」
ぴこん。
ピコのセンサーランプが点滅する。
その言葉をきっかけに、アーカイブ内の記録が再生された。
《絶対カフェやるの!!》
かつてのユナの声。
(あっ……)
完全に一致。
(ユナそのまんまです……)
ピコが遠い目になる。
ソウタも苦笑した。
「はは……なんか、ユナさん思い出すなぁ」
「えっ?」
「一回言い出したら、絶対引かなかったから」
「えへへ……」
ユカはちょっと嬉しそうだ。
「非常に不安です……」
「なんでぇ!?」
「その“なんでぇ!?”までそっくりです」
「えぇぇっ!?」
ソウタが笑いながら肩をすくめる。
「しょうがないなぁ……じゃあ、僕とピコで手伝うよ」
「ほんとっ!?」
ぱぁっとユカの顔が輝く。
「やったぁーっ!!」
両手を突き上げ、その場でぴょんぴょん跳ね回る。
長く閉ざされていたカフェに、久しぶりの笑い声が響いた。
***
こうして――
《Analog Mind Café再開プロジェクト》が始動した。
もっとも。
「“カフェ再開”と言っても、現状はユカがコーヒーを淹れられるようになるだけですが」
ピコの冷静な指摘に、ユカが頬をぷくっと膨らませる。
「むぅ〜、その言い方ぁ……」
「まあまあ。それだけでも十分すごいことだよ」
ソウタになだめられ、ユカは渋々頬を戻した。
ピコはカウンターへ移動すると、くるりと振り返る。
「ではまず基本からです。ユカ、コーヒーの淹れ方、どこまで知っていますか?」
「それくらい知ってるよ! 粉を袋みたいなのに入れて、上からお湯をかけるんでしょ?」
「それは“かなり後の工程”です」
「えっ」
「もっと手前から始まります」
どんっ。
ピコがカウンターに麻袋いっぱいの豆を置いた。
「わっ」
ユカは袋の中を覗き込み、目を丸くする。
「えっ、白い!?」
手のひらに豆を乗せ、まじまじと眺める。
「コーヒー豆って、もっとこう……黒っぽい茶色じゃないの?」
ソウタが横から教える。
「それは焙煎後だね」
「ばいせん?」
「豆を火で煎るんだよ。炒める、って言った方がわかりやすいかな」
「へぇぇ……」
初めて見る生豆に、ユカは素直に感心する。
「でも、ここからやるとなると、かなり本格的だよ? ユカちゃんには難しいかも――」
「うっ……!」
ユカがぴたりと固まった。
手のひらの豆を見つめたまま、じわじわと不安そうな顔になる。
その様子を見たピコの目が、きらーんと怪しく光った。
「ふふふ……今ならまだ引き返せますよ、ユカ」
「むっ」
「“やっぱり無理ぃ〜”と泣きながら、インスタントココアを飲む未来がちらちらと見えていますが」
かちーーーん。
「何よそれぇ!?」
びしっ!!
ユカがピコへ指を突きつける。
「やめるわけないじゃん! 絶対やるしっ!!」
「おやおや。完全に火が付きましたね」
ソウタが呆れ半分に笑う。
「あはは……なんかピコ、わざと煽ってない?」
「気のせいです」
即答だった。
だが、その電子音声はほんの少しだけ楽しそうだ。
(……やれやれ)
ピコは心の中でため息をつく。
(負けず嫌いなところまで、ユナそのままです……)
そんなことには気づかず、ユカは白いコーヒー豆を握りしめた。
「よーし! まずは“ばいせん”から覚えるぞーっ!」
ぴょこん、と拳を突き上げる。
昼下がりの木漏れ日が、長く閉ざされていた《Analog Mind Café》を少しずつ温めていた。
※作者の活動報告に各話のコメントを書いています。
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