第23話①「ささやかな楽しみ」
レジスタンス本部――
食堂兼ミーティングルーム。
金属製の長机。
雑多に積まれた資料。
壁際には、分解途中の機械部品。
戦いの拠点らしい、無骨で生活感の薄い空間だった。
その一角で、カイとユカが向かい合って座っている。
横では、ドローンモードのピコがぷかぷかと浮かんでいた。
カイは紙コップのインスタントコーヒーを口に運ぶ。
湯気が鼻先をかすめる。
苦味はある。
だが、どこか薄い。
その味が、ふいに少し前のことを思い出させた。
***
Cを倒した直後の地下空洞エリア。
黒い粒子がまだ空中を漂い、戦闘の熱気が残っている。
その中を、サクラがカイへ歩み寄ってきた。
「……助かったわ、カイ」
まっすぐカイを見る。
「本当に、ありがとう」
差し出された手。
「ああ……」
カイはその手を握る。
温かい。
それだけで、ようやく現実へ戻ってきたような気がした。
サクラが振り返る。
「アラン。あなたもリーダーとして、何かひと言くらい言ったら?」
少し離れた場所に、アランが立っていた。
やがて、ゆっくり口を開く。
「……まだ、全部を許したわけじゃない」
カイを見る。
「お前のことも、俺自身のことも」
そして、視線を逸らさないまま続けた。
「……だが、お前の力は認める」
それだけ言うと、くるりと背を向けて歩き出す。
「うわ、素直じゃなっ」
少し引き気味のリサ。
ジロウとトモも呆れる。
「厨二を極めすぎだろ、あいつ」
「普通に“ありがとう”で済む話なのに……」
「言語解析的に見ても、感謝表現として成立していません」
ピコも同意する。
それを見て、サクラがくすっと笑った。
「あれが彼なりの最大限なのよ」
少しだけ優しい目で、去っていくアランの背中を見る。
「わかってあげて」
そして改めて、全員へ向き直った。
「さて、あなたたちを正式に仲間として迎え入れるわ」
穏やかだが、力強い声だった。
「ようこそ――レジスタンスへ」
その言葉に、張り詰めていたものが少しだけほどけていく。
去っていくアランの背中も、どこか穏やかに見えた。
***
「“認める”、か……」
カイは紙コップの中を見つめる。
黒い液面が、わずかに揺れた。
向かい側で、ユカがジュースを飲みながら笑う。
「でもさ、ちゃんと仲間として受け入れてもらえて、よかったよね」
「まあな」
そのとき――
ぴこーん!!
不穏なアラート音が鳴った。
「……ユカ。まったく分かっていませんね」
「なに、いきなりマウント!?」
ピコがくるりと回転する。
「レジスタンスに入るということは、これから命懸けの戦いに身を投じるということです!」
ビシッ、と効果音が付きそうな勢いで続ける。
「仲良しクラブではないんですよ!」
「そんなの分かってるもん!」
ユカがむっと頬を膨らませる。
「それに私だって、ドラゴン相手に戦ったし!」
「むむっ」
「ピコなんて、Cにポイって投げられて終わってたじゃん!」
「あ、あれは高度な戦術です!」
「どこが!?」
「あえて油断させて、後から反撃する作戦でした!」
「はいはい、後出し作戦ね」
「なんですか、その言い方ぁ!」
「何よぉ!」
ぎゃーぎゃーぎゃー!!
テーブル越しに激しい応酬が始まる。
「おいおい! 騒ぐなって!」
完全に保護者である。
「だって、ピコが!」
「違います、ユカが!」
「はい! もう、そこまでだ」
カイが二人の間に手を入れて制止する。
「まったく……」
ため息をつきながら、コーヒーをひと口。
そして、少し眉をしかめた。
「ん? どうしたの?」
「……いや」
カイは紙コップを見つめる。
「インスタントじゃなくて、ちゃんとしたコーヒー、飲みたいなって」
その目が、少し遠くを見る。
「カイは毎日、カフェでユナの淹れたコーヒーを飲んでいましたからね」
「へぇ……」
「舌が贅沢なんですよ」
「贅沢って言うなよ」
カイが小さく笑う。
「ただの、ささやかな楽しみだろ」
ユカは紙コップを見る。
湯気の立つコーヒー。
無骨な食堂。
戦いが終われば、また次の戦いが待っている。
そんな毎日の中にある、ほんの小さな楽しみ。
「……コーヒー、かぁ」
ユカの小さな呟きは、まだ誰にも気づかれていなかった。
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