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第22話④「スペードの10」

サクラは、空洞を埋め尽くすほどの漆黒のドラゴンを見上げて叫んだ。


「みんな、この場を離れて!」


「ひぃぃぃっ!」


トモの顔色が一瞬で青ざめる。


「ドラゴンって……リアルD&Dかよ!」


ジロウが叫ぶ。


「マジでヤバい! 早く逃げるよ!」


リサが駆け出す。


ピコが後を追う。


「撤退! 撤退です!」


全員が出口へ走り出す中、ジロウだけがその場にしゃがみ込んでいた。


「お、おい! 起きろって!」


気絶したソウタの頬を、容赦なくバチバチ叩く。


「……」


しかし反応はない。


泡を吹いたまま、魂まで抜けたようにぐったりしている。


「ちくしょうっ!」


ジロウは悪態を吐きながら、ソウタを肩へ担ぎ上げた。


その間にも――


ゴォォォォ……。


ドラゴンの喉奥で、灼熱のエネルギーが脈動する。


空気が震え、地下空洞の壁に亀裂が走った。


混乱の中、アランだけが前へ出る。


《グノーシス・ランサー》を構え、一直線にドラゴンへ駆けた。


「それがお前の正体か……!」


ランサーが変形し、砲身が展開される。


【GNOSIS LANCER — STANDBY】


【TARGET LOCK COMPLETE】


赤い照準光が、ドラゴンの胸部を捉えた。


「くたばれ、怪物!!」


ドォォォンッ!!


圧縮された重粒子砲が、白熱の奔流となって撃ち出される。


だが――


バサァッ!!


ドラゴンが巨大な翼を広げ、爆風ごと空へ舞い上がった。


重粒子砲は虚しく空を裂き、背後の岩壁を貫く。


「くそっ!」


その横を、カイとユカが駆け抜けた。


「アラン! 諦めるのはまだ早い!」


「行くよ、カイ!」


二人が手を重ねる。


「「リアライズ!!」」


指輪が共鳴し、眩い光が炸裂した。


「パラレル・アーカイブ――《エクスカリバー・ライトエディション》!」


光の粒子が収束し、カイの手に白銀の聖剣が顕現する。


「でもカイ! 敵が遠すぎるよ!」


ドラゴンは、はるか上空。

地下空洞の天井付近を旋回している。


「なら――近づいて叩くだけだ!」


「無理無理! 私たち飛べないし!」


「そうかな?」


カイがニヤリと笑い、ユカの手を強く握った。


「えっ?」


次の瞬間、聖剣を地面へ向けて振りかぶる。


「飛べないなら、吹っ飛べばいい!!」


ドゴォォォォンッ!!!


光の斬撃が地面を爆砕した。


炸裂した爆風が二人の身体を一気に空へ跳ね上げる。


「無茶すぎぃぃぃっ!!」


凄まじい勢いで上昇する二人。


その最中、カイは次の術式を展開した。


「パラレル・アーカイブ――《ミョルニル・スパークフォージ》!!」


雷光が弾け、ユカの手に巨大な戦槌が出現する。


「これは……!」


青白い雷が、ハンマーの表面を荒れ狂う。


「ユカ! そいつをドラゴンにぶちかませ!!」


「――わかったぁっ!!」


「行っけぇぇぇぇっ!!」


ぶんっ!!


カイがユカの腕を全力で振り抜いた。


「わわわわっ!?」


そのまま投げ飛ばされるユカ。


一直線にドラゴンへ迫る。


「行くよぉぉぉっ!! 思いっ切りしびれちゃえ!!」


渾身の力で、ミョルニルを振り下ろす。


バチバチバチバチィィィッ!!!


超高圧の雷撃がドラゴンを飲み込んだ。


ギャァァァァァァッ!!!


巨体が苦悶し、雷撃から逃れるように急旋回する。


だが、その先には――


「……狙い通りだ」


聖剣を構えたカイが待ち受けていた。


「《ブレイク・ウェイブ》!!」


白銀の斬撃が一直線に走る。


ズバァァァァァンッ!!


光がドラゴンの身体を切り裂き、爆発が虚数ノードを揺るがした。


砕け散る黒い鱗。


カイとユカの身体が重力に引かれ、落下していく。


「うわぁぁぁぁっ!!」


シュルルルルッ!!


無数の発光ワイヤーが空中を走った。


「《ノルン・スレッド》!」


光の糸が二人を包み込み、落下速度を一気に減衰させる。


カイとユカはそのまま、地面へ滑るように着地した。


***


爆煙がゆっくりと晴れていく。


焼け焦げた空気。

砕けた黒い鱗。


その中央に、仰向けに倒れたCがいた。


肩で荒く息をしている。


先ほどまでの余裕も、狂気じみた笑みも消えていた。


カイ、ユカ、アラン、サクラが、その姿へ近づいていく。


少し離れた場所では、リサ、ジロウ、トモ、ピコが見守っていた。


ジロウの肩には、いまだ気を失ったままのソウタが担がれている。


「……なんでぇ……」


Cの口から、かすれた声が漏れた。


「わたしぃ……負けちゃったんだろぉ……」


天井を見つめたまま呟く。


カイはしばらくCを見つめてから答えた。


「人間は……苦しみを合理的に処理しない」


Cの瞳が動く。


「おまえは、そこを最後まで理解できなかった」


「あははぁ……そっかぁ……」


乾いた笑いが漏れる。


「人間ってぇ……ほんとぉ、変だよねぇ……」


Cはゆっくりと目を閉じた。


戦いは終わった。


誰もが、そう思った。


「でもぉ……」


「……?」


ガバッ!!


Cが勢いよく身体を起こした。


真っ赤な瞳。


飢えた獣のような顔。


「わたしぃ!! 感情を食べずにぃ!! いられないのぉぉぉっ!!」


ユカへ手を伸ばす。


「えっ――」


速い。


ボロボロの身体からは想像もできない速度。


避けられない。


そのとき――


シュッ!


空気を裂く鋭い音。


「っ――!?」


Cの動きが止まった。


手のひらに、一枚のカードが突き刺さっている。


黒いスペード。


数字は――“10”。


終局を告げるカード。


「スペードのぉ……10ぅ……?」


Cの声が震えた。


「まさかぁ……Dのぉ……!?」


初めてだった。


Cの顔に、明確な恐怖が浮かんだのは。


「全員、伏せろ!!」


《グノーシス・ランサー》が変形する。


【GNOSIS LANCER — PARTICLE BURST MODE】


砲身が展開し、蒼白い重粒子光が収束していく。


「いやぁぁぁぁーっ!!!」


ドォォォォォンッ!!!!


圧縮された重粒子奔流が、Cの身体を真正面から飲み込んだ。


光。

熱。

衝撃。


すべてが収まったあと――


そこに、Cの姿はなかった。


焼け焦げた地面に残されているのは、黒い“影”だけ。


まるで、その存在そのものを焼き付けたかのように。


焦げたコードの匂いが漂う。


ユカは震える身体のまま、そっとカイへ抱きついた。


カイは何も言わない。


ただ、Cが消えた場所を見つめ続けていた。


《第22話・終わり》


――次回予告。


始まりは、カイさんの何気ないひと言だった。


えっ!?

ユカちゃん、カフェやるの!?


……いや、7歳だよね!?


お店やるのって、衛生管理、在庫管理、金銭管理……。


っていうか、未成年労働、大丈夫なの!?


ユナさんがいなくなった《Analog Mind Café》で、彼女の想いを受け継ぐユカちゃん。


カフェの過去を知るうちに、ユナさんのとんでもない黒歴史まで明かされて!?


でも――まずはコーヒー豆の焙煎から!?


次回、

『フラグメンツ・オブ・トゥルース ~最後の投擲~』


第23話「ユカのカフェ開店大作戦!」


繊細すぎる味の再現って……。


あはは……これ、戦いより大変じゃない?



※作者の活動報告に各話のコメントを書いています。

https://syosetu.com/userblog/list/

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