第22話②「負けろ」
ユカは、残された仲間たちを見渡した。
最初は八人いた。
なのに――もう半分。
そして、Cは。
(HP、まだ80もある……)
視線が、空中に浮かぶCのステータス表示へ向く。
このゲームでは、20面体ダイスで15以上を出さなければ、攻撃は通らない。
しかも、一度に与えられるダメージは、たったの5。
(倒すには……15以上の目を16回)
頭の中で、冷たい計算が回る。
(そんなの……4人で届くわけない……)
胸の奥が、じわりと重くなる。
「次は、俺が行く」
カイだった。
その声には、妙にはっきりした覚悟が宿っている。
「カイ……?」
カイはユカを見る。
そして――声を出さず、ゆっくりと口を動かした。
「ま」
「け」
「ろ」
(“負けろ”…?)
意味が分からない。
けれど――
(違う……カイは、何か考えてる)
確信に近い直感が走る。
ユカは小さく息を吸い、声を張った。
「パラディン、カイの攻撃!」
20面体ダイスが高く跳ねる。
カラララララ――ッ!
全員の視線が集まる。
止まった数字は――
5。
頭を抱えるジロウとトモ。
「あぁ〜っ! 終わっただろ、これぇ!」
「残り……私たち3人だけ……」
Cが嬉しそうに目を細める。
「うふふふぅ♪
じゃあぁ、いただきまぁ〜す♪」
すっと、カイの胸へ手を差し入れる。
ずるり――。
感情のシートが引き抜かれた。
「……」
その瞬間、カイの身体から力が抜ける。
「カイっ!!」
分かっていた。
何か策がある。
それでも、叫ばずにはいられなかった。
引き抜かれたシートは、空中でゆらりと形を変えていく。
それは――黒。
闇より深い、光を拒絶するような漆黒。
やがてそれは、一着の喪服へと変わった。
「なぁにぃ、これぇ? 地味すぎぃ〜」
つまらなさそうに、Cはその喪服を羽織る。
その瞬間――
「……っ」
ユカが目を見開く。
「えっ……?」
リサが異変に気づく。
「様子が変だ……!」
Cが胸を押さえる。
指先が震える。
呼吸が乱れる。
「あ……ああぁぁぁぁっ!!」
突然、絶叫が空間を引き裂いた。
胸をかきむしりながら、Cが苦しみ始める。
「な、なんだぁ……これぇ……!?」
いつもの間延びした声が、完全に崩れていた。
「喪失……悲しみ……深すぎる……!
こんなの……耐えられな――」
言葉にならない。
Cの身体から、黒い感情の奔流が噴き出す。
どろり、と。
まるで、今まで吸い込んできた人々の感情そのものが、逆流しているみたいに。
怒り。
憎しみ。
絶望。
孤独。
後悔。
悲鳴のような感情が、空間に溢れ返る。
「がああああぁぁぁぁっっ!!」
さああああああぁぁぁぁ――ッ!
周囲を覆っていた闇が、音を立てるように晴れていく。
ジロウとリサが周囲を見渡す。
「な、何だこれ……!?」
「特殊エリアが……解除されてる!」
黒い空間が、次々と崩壊していく。
倒れていたカイ、アラン、サクラの身体が、ぴくりと動く。
「……っ」
「ここ、は……」
感情を奪われていた者たちが、次々と意識を取り戻していく。
さらに――。
中央に浮かんでいた20面体ダイスが、
ぱきん、と音を立てて砕け散った。
光の粒となって消滅する。
ゲームマスターCが支配していた世界が、今――崩れ始めていた。
※作者の活動報告に各話のコメントを書いています。
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