第21話③「ゲームの達人たち」
人間の感情を捕食するC。
その姿を目の前にして、ユカは激しく動揺していた。
どうすればいいのか分からない。
咄嗟に、カイへ視線を送る。
カイは――最初から、ずっとユカを見ていた。
「カイ……」
張り詰めていた心が、限界を迎える。
ぽろり。
ユカの頬を、一粒の涙が伝った。
「発汗率上昇! 心拍数、不安定です!
このままでは危険――!」
ピコが慌てて叫ぶ。
Cは、そんなユカを見て、くすくすと笑った。
「あらぁ? おチビちゃん、もお限界かしらぁ?」
悪意はない。
ただ純粋に――人間が壊れていく瞬間を、楽しんでいる。
ユカは唇を噛んだ。
肩が震える。
呼吸が乱れる。
そのとき――。
「ユカ」
カイの声が届いた。
ユカが顔を上げる。
カイは、まっすぐユカを見つめていた。
そして――。
ぐにゃっ。
突然、カイが全力で変顔をした。
「…………ぷっ」
あまりにも突然だった。
緊迫感も、絶望感も、全部ぶち壊すような顔。
ユカは必死に笑いをこらえる。
肩が震える。
唇がひくつく。
「……あはっ……!」
もう限界だった。
「あはははははっ!!」
涙を流しながら、ユカは笑い始めた。
カイはさらに調子に乗る。
白目を剥く。
頬を思い切り引っ張る。
さらには意味不明なポーズまで繰り出した。
「やっ、やめっ……!
あははははっ!!
もう、いい加減にしてよ!!」
「ユカの情緒、安定化!
ストレス値、急速回復中です!」
ピコが叫ぶ。
「えっ……?」
ユカが涙を拭う。
カイは、ふっと笑った。
「それでいい」
優しい声だった。
「ゲームを――この状況を、楽しむんだ」
カイはユカを見つめる。
「だから――」
そして、穏やかに言った。
「おまえは――そうやって笑ってろ」
リサが呆れたように笑う。
「カイ……まったく。あんたってやつは」
それでも、その顔には安心したような笑みが浮かんでいた。
カイはゆっくりと前を向く。
「一人で背負い込むな」
そして仲間たちを見回した。
「俺たちがついてる」
「そうよ、ユカ!」
トモが声を上げる。
「僕たちを信じて!」
ソウタも続いた。
「みんな……」
ユカの胸の奥が、じんわりと熱くなる。
仲間がいる。
自分一人で戦うんじゃない。
そのことを、もう一度思い出した。
そして――。
ぴしゃん!!
ユカは勢いよく、自分の両頬を叩いた。
「……完全に戻ったな」
アランが呟く。
ユカは涙を拭い、まっすぐ前を向いた。
「みんな! 心配かけてごめん!」
拳をぎゅっと握る。
「もう私は、大丈夫!」
Cが嬉しそうに笑う。
「うふふぅ♪ それでこそぉ――」
舌なめずりをする。
「わたしがぁ、一番強いってぇ、認めただけはあるわぁ♪」
愉悦に満ちた瞳が、ユカを捉える。
「あなたのぉ、感情ぉ?
味わうのがぁ、超楽しみぃ〜♪」
「ふんっ」
ユカも、不敵に笑った。
恐怖は消えていない。
サクラを救えなかった悔しさも、Cへの怖さも残っている。
それでも――もう折れない。
ユカは一歩、前へ出た。
「そんな簡単に行かないから!」
そして、力強く笑う。
「だって――」
仲間たちを振り返る。
みんなが、ユカを見ている。
「この勝負、楽しんだ方が勝つ!」
ユカはCを指差した。
「それは、私たちだから!」
その瞳に、もう迷いはなかった。
※作者の活動報告に各話のコメントを書いています。
https://syosetu.com/userblog/list/




