第21話②「暴走するゲームマスター」
ゲーム開始を告げるベル代わりに、Cが両手をぱんっと鳴らした。
「さぁてぇ――開幕ぃ♪
ラスボスCちゃんがぁ、襲ってきましたぁ?」
自分自身を指差し、芝居がかった笑みを浮かべる。
「HPはぁ、100ぅ。ダイス15以上でぇ、ようやくぅ5ダメージぃ、入りまぁす♪」
「ちょっと待って待って!
設定おかしいでしょ!?」
トモが思わず叫ぶ。
ジロウも頭を抱えた。
「出たよ……テーブルトークRPGあるある、“暴走するゲームマスター”!」
「うふふぅ♪ 勝てるかなぁ?」
Cが楽しそうに笑う。
その瞬間、カイがユカへ振り向いた。
「ユカっ!
◎△$♪×¥●&%#しろっ!」
「えっ? カイ、なに言ってるの!?」
カイの声は、まるで大量のノイズが混ざったように意味を結ばない。
Cは肩を揺らして笑った。
「はぁい♪ 駒からのぉ、プレイヤーへのぉ、直接アドバイスはぁ、禁止でぇす」
人差し指を立て、悪戯っぽく笑う。
「ルール違反はぁ、ちゃーんとぉ、防がれまぁす♪」
「なんだと……!?」
カイが顔をしかめる。
リサがユカを見る。
「つまり本当に……この勝負、ユカ一人に全部かかってるってことかい」
ユカの顔から血の気が引いた。
しかし、そのとき――ソウタが一歩前へ出た。
「ユカちゃん、落ち着いて!
さっき出来たんだ。
君なら絶対できる!」
「……うん」
ユカは目を閉じ、小さく息を吸った。
(落ち着いて……まずは状況を整理する)
相手のHPは100。
しかも、一回の攻撃で与えられるダメージはわずか5。
(でも……こっちは8人いる)
アラン。サクラ。
リサ。ジロウ。トモ。
ソウタ。ピコ。そしてカイ。
(みんなで攻撃すれば……)
ユカは仲間たちを見回した。
(一人じゃ無理でも、全員なら届く……!)
ゆっくりと顔を上げる。
「ごめん! みんなを……捨て駒みたいに使うことになる!」
アランが不敵に笑った。
「上等だ。勝てるなら安い」
サクラも頷く。
「ユカ、指示を。私たちは従うわ」
カイが口元をわずかに緩める。
「……さすが、ユカだ。
俺が伝えたかったことを、しっかり理解している」
「この状況下における戦術としては、それが最適解です!」
ピコも嬉しそうに叫ぶ。
「ユカちゃん、すごいよ!」
ソウタが笑った。
仲間たちが次々と前へ出る。
武器を構える者。
拳を握る者。
覚悟を決める者。
その光景を、Cは心底楽しそうに眺めていた。
「いいわねぇ……それそれぇ♪
“全員でボスに挑む空気”ぃ、最高ぉ♪」
8人が一斉に戦闘態勢を取る。
まるで、本物のラスボス戦だ。
***
ユカが震える声で、最初の行動を宣言した。
「……ローグ、サクラさんの攻撃!」
サクラが前へ出る。
「任せなさい」
細い指先で、ダイスを弾いた。
カララララッ――。
転がる音が長く響く。
そして、止まった目は――12。
「……」
Cの口元が、にたりと吊り上がった。
「あらぁ? ざぁんねぇん♪」
「っ……!」
「15以上じゃないとぉ、ダメージぃ、入りませぇん♪」
ユカの肩が震えた。
「ご、ごめんなさい……!
私の指示が悪かったせいで……!」
「違うわよ」
サクラはあっさり笑った。
「運が悪かっただけ。
指揮官が全部背負わないの」
「……サクラさん」
ユカが顔を上げる。
だが、ジロウが乾いた声を漏らした。
「なぁ……もし負けたら、俺たち……どうなんだ?」
その言葉に、全員の視線がCへ集まる。
Cは、にこぉっと笑った。
そして、指をぱちんと鳴らす。
「はぁい♪ 負けたぁ駒はぁ――」
嫌な予感が、ユカの全身を駆け抜けた。
「Cちゃんにぃ、感情をぉ、奪われまぁす♪」
「……何っ?」
アランの顔が強張る。
次の瞬間――Cが音もなくサクラの目の前に立った。
「――っ!?」
Cの手が、サクラの胸元へ差し込まれる。
ぐちゃり。
空間そのものを掴んだような、不気味な感触。
そして――。
バサバサバサッ!!
胸の奥から、紙束のようなものが無理やり引きずり出された。
「あ……ぁ……」
サクラの瞳から、感情の光が急速に薄れていく。
「サクラァッ!!」
アランが駆け寄ろうとする。
だが、サクラはもう反応しない。
人形のように、ぴたりと動きを止めていた。
引き抜かれた“感情”は、淡い緑色のスカーフへと変わる。
Cはそれを、うっとりと首に巻いた。
「はぁぁん……♡ 綺麗ぃ……」
頬を染め、陶酔したように目を細める。
「これぇ、“覚悟”だぁ♪」
スカーフを指先で撫でる。
「怖いのにぃ、
納得なんてぇ、してないのにぃ――」
そして、胸元でぎゅっと抱きしめた。
「それでもぉ、前に進もうとするぅ、人間のぉ感情ぉ♡」
「……!」
全員の背筋を悪寒が駆け抜けた。
理解してはいけない生物を、目の前にしている。
カイが低く呟く。
「こいつ……感情を、食ってるのか……?」
「……どうやらそのようです」
ピコが即答した。
「人間の感情を物質化し、吸収・収集していると推測されます!」
「ば……化け物……!」
リサが後ずさる。
ジロウも顔を引きつらせた。
「おいおい……100年の恋も冷めるレベルだぞ……」
だが――。
誰よりも強く震えていたのは、ユカだった。
(こんなの……どうやって……)
呼吸が浅くなる。
(どうやって、立ち向かえばいいの……!?)
両腕で自分の身体を抱き締める。
ガタガタと、抑えきれない震えが走った。
仲間が負けるたび、感情を奪われる。
しかもCは、それを嬉しそうに味わっている。
その事実が、ユカの心を完全に折りかけていた。
※作者の活動報告に各話のコメントを書いています。
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