第20話④「わたしがルール」
カイとユカが、地下空洞エリアへ続く通路を走っていく。
その後ろを、ソウタが必死についてきていた。
「ユ、ユカちゃん……ほんとに大丈夫なの……?」
完全に流れでここまで来てしまった。
ソウタは何度も後ろを振り返る。
その隣で、リサがニヤリと笑った。
「さーて。私たちも見に行こうか」
「はぁ!? いやいやいや、待てって!」
ジロウが慌てて声を上げる。
「レジスタンスとAI幹部のガチバトルだよ?」
リサの目が輝く。
「こんなの、特等席で見られる機会なんて滅多にないって!」
「ひえぇぇぇ……」
トモが顔を引きつらせる。
「絶対ヤバいやつですよぉ……」
「ほら、行くよ!」
意気揚々とリサが作戦ルームを飛び出す。
「おい、待てって!」
「僕まで巻き込まないでぇぇ……!」
ジロウとトモも、顔を引きつらせながら後を追った。
***
地下空洞エリア。
むき出しの岩壁に囲まれた、巨大な地下空間。
広さは大きなグラウンドほど。
天井までは、およそ五十メートル。
照明の届かない岩壁の向こうまで、暗闇が広がっている。
その中央に、アランが立っていた。
手にしているのは、漆黒の巨大兵装――《ブラック・コフィン》。
その隣では、サクラが《ノルン・スレッド》の起動システムを確認している。
「システム、オンライン」
キィィン……。
サクラの背後で淡い紫光が走った。
装備されたユニットが展開し、頭上に複数の制御リングが浮かび上がる。
リング同士を結ぶように、無数の光糸が空中へ伸びた。
シュルルル……。
細い光糸が幾重にも絡み合い、サクラの周囲を旋回する。
《NORNN THREAD――READY》
サクラが手を握る。
光糸が一斉に収束した。
「制御同期、完了」
その時――。
コツ。
コツ。
コツ。
岩壁に囲まれた通路の奥から、靴音が近づいてくる。
やがて、暗闇の中から赤い髪が現れた。
腰まで伸びた長い赤髪。
黒い衣装。
そして、紅い瞳。
監視モニターに映っていた侵入者――Cだった。
Cはランウェイを歩くモデルのように、優雅な足取りで近づいてくる。
その表情には、この場所には似つかわしくない無邪気な笑顔が浮かんでいた。
「みんなぁ、こんばんはぁ♪」
まるでパーティ会場にでも来たような声だった。
「な、なんですか……この場違い感……」
トモが震える。
ジロウはCを見つめたまま、ぽつりと呟いた。
「やっべ……普通に一目惚れしそう……」
「見た目にやられてんじゃないよ!」
リサが即座にツッコむ。
Cはそんな三人を眺め、楽しそうに笑った。
「ふふっ♪ おもしろぉい人たちぃ」
アランが一歩前へ出る。
巨大な《ブラック・コフィン》が、その背後に黒い影を落とした。
「貴様……AIか?」
「そうよぉ♪」
Cが嬉しそうに頷く。
「Cちゃんよぉ♪」
胸元へ指先を当てる。
「感情でぇ、人間を理解するAIなのぉ?」
そして――。
「よろしくねぇ?」
ちゅっ。
投げキッス。
「し、Cちゃん……」
ジロウの目が完全にハートになる。
「ダメだ、こいつ」
リサが頭を抱えた。
その様子を見ながら、ユカはCをじっと見つめていた。
「前のBは……」
小さな声で呟く。
「“分析”で人間を理解しようとしてた」
ユカの瞳が細くなる。
「そして、次は……“感情”なんだ……」
ピコがユカの言葉にうなずく。
「そうです。
シン統治システム四者協議――」
ホログラムが展開する。
四つの項目が空中に表示された。
《AI》
《BRAIN》
《CHEST》
《DICE》
「AI、論理、感情、確率」
ピコが説明する。
「本来は分割されていた統治機構を、AI側が掌握し、それぞれの機能を人格化した存在と考えられます」
カイがCを睨む。
「感情型か……」
紅い瞳を見据える。
「そいつは、ちょっと厄介だな」
その時――。
アランが《ブラック・コフィン》へ手を伸ばした。
ガチンッ!
ロックが解除される。
「悪いが……一瞬で終わらせる」
アランが起動スイッチを押した。
ガシャン――!!
黒い棺の外装が一斉に展開する。
ガガガガガッ!!
装甲が左右へ開き、内部機構がせり出していく。
巨大な砲身。
露出した粒子加速機構。
幾重にも重なる黒い装甲。
《ブラック・コフィン》が、対AI殲滅兵装――
《グノーシス・ランサー》へ変形する。
ヴゥゥゥン……!
重低音が地下空洞全体を震わせた。
砲身内部に粒子エネルギーが集束していく。
《PARTICLE CORE――STANDBY》
アランが砲身をCへ向ける。
「終わりだ」
だが――。
Cは砲身を見つめ、ぱちぱちと瞬きをした。
「あれぇ……?」
首を傾げる。
「それってぇ……Bをぉ、消しちゃったやつぅ?」
「――もう遅い!」
アランが引き金へ指をかける。
その瞬間。
「んふふぅ♪」
Cが指先をくるりと回した。
さあああああぁぁぁっ……。
空間そのものが、黒く染まっていく。
床も。
岩壁も。
天井も。
すべての光が、一瞬で闇へ沈んだ。
「っ!?」
カイが周囲を見渡す。
ユカが反射的にカイの背後へ身を寄せた。
「カイ……!」
「大丈夫だ」
カイがユカを庇うように立つ。
その前方で――。
《グノーシス・ランサー》の駆動音が止まった。
「なに……?」
アランが兵装を見る。
装甲表面に赤いエラー表示が走る。
《MALFUNCTION》
「兵装制御が……!」
サクラも《ノルン・スレッド》を確認する。
頭上に展開していた制御リングが次々と消えていく。
「遮断されてる!?」
《NORNN THREAD――OFFLINE》
サクラが目を見開く。
「そんな……!」
アランがCを睨みつける。
「何をした……?」
Cは、暗闇の中で両手を広げた。
紅い瞳だけが、妖しく輝いている。
「よぉこそぉ♪」
くるりと身体を回す。
「わたしのぉ、特殊エリアへぇ♪」
Cが微笑む。
「ここではぁ……」
指先を、くるっと回す。
「わたしがぁ、ルールをぉ、決められるのぉ♪」
「な、何それ!?」
トモが叫ぶ。
「チートすぎない!?」
「さすがCちゃん……!」
ジロウがうっとりする。
「はぁはぁ……」
「お前どっちの味方だよ!」
リサのツッコミが飛ぶ。
だが、ジロウはまったく聞いていない。
Cは楽しそうに笑いながら、暗闇の中央でくるりと回った。
「じゃあぁ……」
紅い瞳が、全員を捉える。
「勝負をぉ、始めよっかぁ?」
にこっ。
「暴力的じゃぁ、ないやつぅ♪」
その笑顔とは裏腹に、誰もが嫌な予感を覚えた。
武器は使えない。
逃げ道もない。
そして、この空間では――Cがルールを決める。
「こいつ……」
カイが低く呟く。
「いったい何をするつもりだ……?」
Cは答えない。
ただ、楽しそうに笑っていた。
「んふふぅっ♪」
地下空洞に、Cの笑い声だけが響いた。
《第20話・終わり》
次回予告
「レジスタンスのみんなと遊ぶぅ、
すっごく楽しいゲームぅ?
Cちゃんはぁ、ハンディをぉ、
あげようと思ってたのにぃ――
なんでかぁ、おチビちゃんがぁ、
プレイヤーになっちゃったぁ♪
何それぇ〜、超ウケるんですけどぉ〜
しかもぉ、
わたしがゲームマスターでぇ、
さらにぃ、ラスボスなのぉ♡
みんながぁ、たっくさぁ〜ん
ドキドキできるようにぃ、
負けたらぁ――感情ぉ、
ぜぇんぶぅ、いただいちゃいまぁ〜す♪
次回ぃ、
『フラグメンツぅ・オブぅ・トゥルースぅ? ~最後のぉ投擲ぃ~』
第21話ぁ「ゲームのぉ達人たちぃ」。
ねぇ、おチビちゃん……
いつまでぇ、壊れずにぃ、いられるかなぁ?
んふふぅ〜っ♡
※作者の活動報告に各話のコメントを書いています。
https://syosetu.com/userblog/list/




