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第19話①「仲間だから切り捨てる」

機械音だけが、低く空間に響いていた。


無数のモニターが並び、画面には絶え間なくコードが流れている。

薄暗い光の中央で、黒い外套の男がゆっくりと振り返った。


コートの裾が揺れる。


鋭い眼差しが、カイたちを捉えた。


「――ようこそ」


低く抑えた声が、巨大な空間へ響き渡る。


「レジスタンスへ」


カイは周囲を見回した。


「やはり……ここがレジスタンスの本拠地か」


男はさらに一歩、前へ出る。


「そして今こそ――」


その視線が、真っ直ぐカイを射抜いた。


「世界の裏の姿を見せてやろう」


「世界の……裏の姿……?」


ユカが目を見開く。


その言葉を聞いた瞬間、カイの脳裏に一通のメッセージが蘇った。


《フェイクの裏に眠る

“本当のユナ”を探せ――カイ》


“本当のユナ”。


そして今、修正者が口にした“世界の裏の姿”。


二つの言葉は、おそらく繋がっている。


理由はわからない。


ただ、そう感じた。


「……俺にメッセージを送ったのは、お前か?」


修正者の眉が、わずかに動く。


だが、それ以上の反応はなかった。


「……なんのことだ?」


「なら、なぜBとの戦いの場に現れた」


カイが一歩踏み込む。


「俺に届いたメッセージには、リサたちのアジトの座標が記されていた。

そこへ行くと、ユカがいて……指輪があった。

そしてBが現れ、最後にお前だ」


カイの声が低くなる。


「出来すぎてる。

まるで最初から、全部仕組まれていたみたいにな」


修正者は小さく肩をすくめた。


「……企業秘密だ」


それだけ言うと、背を向けた。


「……あくまでシラを切り通すつもりか」


返事はない。


修正者は、そのまま奥へ歩き出した。


カイはその背中を睨みつける。


「なら――」


一歩、踏み出す。


「俺がお前たちの“裏の姿”を暴いてやる」


そのまま修正者の後を追った。


***


地下通路は、無機質な白い光に照らされていた。


壁面を光ケーブルが走り、一定間隔で設置された照明が足元を照らしている。


修正者の背には、棺型へ変形した《グノーシス・ランサー》。


その存在だけで、通路の空気を冷たく感じさせる。


後ろを歩きながら、カイが口を開いた。


「前に来た時は、《Truthline Analytics》とかいう、いかにも普通の企業を装ってたよな」


「当然だ」


修正者は即答した。


「“我々はレジスタンスです”などと看板を掲げる馬鹿がどこにいる」


「……そりゃまあ」


ジロウが苦笑する。


「正論だけど怖いんだよなぁ……」


トモも小声で続けた。


だが、カイは笑わなかった。


「ユナは……あんたらの仲間だったんだろ」


修正者の足が止まらない。


「なのに、なぜ助けなかった」


「俺たちは、素性を隠して活動している」


淡々とした声が返ってくる。


「正体が露見した者。

追跡された者。

捕捉された者――」


修正者の声が冷たくなる。


「それらを救出しないことが、組織のルールだ」


「……!」


リサたちの表情が曇った。


「ルール、だと……?」


「一人を助ければ、組織全体が芋づる式に崩壊する」


修正者は振り返らない。


「ユナも、それを理解した上で活動していた」


「……ふざけんな」


カイの声が低くなる。


「仲間だろうが」


「仲間だから切り捨てる」


即答だった。


「大義のためだ。

俺たちは、一人の命で組織を危険に晒さない」


カイの拳が、ぎしりと鳴った。


脳裏に浮かぶ。


笑うユナ。

ボードゲームを並べるユナ。

そして、いつも帰ってきたカイを迎えてくれたユナ。


「おかえり」


あの声が蘇る。


「その“大義”のせいで……ユナは消えたんだぞ……!」


修正者が足を止めた。


ゆっくり振り返る。


その瞳には、迷いがなかった。


「だから、お前は甘いと言っている」


「……!」


「感情で組織を動かせば、全員が死ぬ」


カイが睨み返す。


「ユナは理解していた。

だが、お前はそれを理解できない半端者だ」


カイの中で、何かが切れた。


一歩、踏み込む。


「今、ここで――」


その目に殺気が宿る。


「やり合ってもいいんだぜ」


「お、おい……!」


ジロウが慌てる。


「ちょっと待ってって……!」


だが、修正者は笑った。


「面白い」


背中の棺へ手をかける。


ガコン――。


装甲が展開し、内部から青白い粒子光が漏れ出した。


「なら、一瞬で消し去ってやる」


冷酷な目がカイを捉える。


「さっきのAIのようにな」


カイの脳裏に、Bの最期が蘇る。


理解できないものを理解しようとして、涙を流していたB。


危険なAIだった。


それでも最後まで、“理解したい”と苦しんでいた。


目の前の男には、その苦しみすらない。


合理。

切り捨て。

大義。


「こいつ……Bより人間味がねえな……」


カイが修正者へ詰め寄る。


その瞬間――。


「やめて!!」


ユカが二人の間へ飛び込んだ。


両手を広げる。


小さな身体が、カイと修正者の間に立ちはだかる。


「もう……誰かが傷つくの、やだ……!」


声は震えていた。


怖いはずなのに、ユカは逃げなかった。


修正者がユカを見る。


やがて、深く息を吐いた。


「……また嬢ちゃんか」


棺から手を離す。


「お前は、こいつの命綱だな」


カイは何も言わなかった。


修正者は再び前を向く。


そして歩き出した。


◆


長い地下通路の先に、巨大な隔壁扉が現れた。


何重もの電子ロック。

中央には、古びた紋章が刻まれている。


修正者が扉へ手をかざす。


認証光が走った。


ピッ――。


ガコン。


重いロックが一つずつ解除されていく。


そして――。


ゴゴゴゴゴ……。


巨大な扉が、ゆっくりと開き始めた。


その向こうに待っているものを、カイたちはまだ知らなかった。


※作者の活動報告に各話のコメントを書いています。

https://syosetu.com/userblog/list/

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