第18話③「新たな仲間たち」
ユカは、目の前に佇む《Analog Mind Café》を見つめた。
かつては温かな灯りを灯していた店も、今は看板が外され、窓には色褪せた「CLOSED」の文字が残っている。
「ユナお姉ちゃんの店……」
「そうだ」
カイは店を見つめたまま、わずかに目を細めた。
「そして――俺が、初めてあいつと会った場所だ」
その言葉に、カイの脳裏へ古い記憶が蘇る。
依頼主の企業へ向かう途中、道に迷ったカイが偶然見つけた小さなカフェ。
カウンターの奥では、一人の女性がボードゲームの駒を磨いていた。
『珍しいね。こんな時間に若いお客さん』
顔を上げたユナが、ふわりと笑う。
柔らかな照明。
コーヒーの香り。
レコードから流れる音楽。
あの日の光景は、今もカイの記憶に残っている。
(……もう、ずいぶん昔のことみたいだ)
「……そりゃ、キツいよな」
ジロウが、ぽつりと呟いた。
「なんか……私まで泣きそうになってきた……」
トモまで目を潤ませている。
「いや、おい」
「はい?」
「え?」
ジロウとトモが同時に姿勢を正した。
カイは振り返り、ユカ、リサ、ジロウ、トモを順番に見渡す。
「なんでお前らまで、普通について来てんだよ」
「え、なんでって……」
ジロウがトモを見る。
「ねぇ?」
トモも首を傾げる。
その後ろでは、リサがニヤニヤしていた。
「私は絶対ついて行くからね!」
ユカがカイを指差す。
「だって、パートナーなんだから!」
「パートナーって……お前なぁ」
カイが頭を抱える。
「これから先は、さっきまでとは比べ物にならないくらい危険だぞ。とっとと帰れ」
「やだ」
即答だった。
「即答すんな」
「だってカイ、私がいなきゃ指輪の力、ちゃんと使えないじゃん!」
「うぐっ……!」
図星を突かれ、カイが一歩後ずさる。
ユカは満面の笑みを浮かべた。
「はい、決まり!」
「ははっ。カイ、あんたの負けだね」
「諦めろって」
「うんうん」
リサ、ジロウ、トモまで賛同する。
「い、いやっ、ユカはともかく!」
カイが三人を指差した。
「お前らは関係ねぇだろ!」
すると、リサの表情が少しだけ柔らかくなった。
「あんたのこと、気になっちまってね」
ジロウも頭を掻く。
「俺たち、今までのこと……ちょっと悔いてるんだ」
そして、まっすぐカイを見る。
「だから、せめて償わせてくれ」
トモも閉ざされたカフェを見上げた。
「それに……私たちも知りたいの」
「何を?」
「ユナさんのこと。あなたが追ってる“真実”を」
カイは四人を見つめた。
それぞれ理由は違う。
ユカはカイを心配している。
リサは真実への好奇心。
ジロウはこれまでのことへの後悔。
トモはユナのことを知りたい。
それでも、全員がここにいる。
カイは小さく息を吐いた。
「……勝手にしろ」
「よし、正式加入ってことで」
リサが軽く手を上げる。
「私はリサ・オイレン。解析、侵入、リバースエンジニアリング担当」
「ジロウ・ケイ。インフラ、ネットワーク、実装担当だ」
「トモ・レイヴンクロフトでーす!」
トモがぺこっと頭を下げる。
「UI、感情設計、コミュニケーションAI担当! よろしくねー!」
カイは三人を見て、呆れたように呟いた。
「肩書きだけは、やたら強そうだな……」
「実際強いよ?」
「……足引っ張るなよ」
ぶっきらぼうに言い残し、カイはカフェへ向かって歩き出した。
「待って!」
ユカがすぐに追いかける。
その後ろから、リサ、ジロウ、トモも続いた。
閉ざされた《Analog Mind Café》。
ユナがいなくなってから、止まっていた場所。
そこへ今、新たな仲間たちと共に足を踏み入れる。
ユナが残したものを追うために。
そして――カイたち自身の、真実を追うために。
止まっていた時間が、再び動き始めようとしていた。
※作者の活動報告に各話のコメントを書いています。
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