第18話②「夜風と黒棺」
修正者の後ろ姿を、カイは黙って見つめていた。
黒いロングコートが夜風に揺れている。
やがてカイは、修正者の後を追って歩き出した。
「待って!」
ユカが慌てて駆け寄る。
「お、おい!? マジで行くのかよ!」
ジロウは困惑した顔で、隣のリサを見た。
するとリサは、面白そうに口元を吊り上げる。
「いいじゃないか」
肩をすくめ、修正者の後を追い始めた。
「“世界の真実”なんて、聞いただけでワクワクする」
「それだけかよ……」
「それに――」
リサは振り返り、にやりと笑った。
「乗り掛かった船だ」
「なんだよ、その理由……」
ジロウが頭を抱える。
「えっ、えっ!? ちょっと待ってよぉーっ!」
トモも半泣きになりながら、慌てて後を追った。
崩れた廃ビルの奥へ。
それぞれの思惑を抱えたまま、一同は“真実”の闇へ足を踏み入れていった。
瓦礫だらけの裏路地へ出ると、修正者が歩みを止めた。
夜風が吹き抜け、黒いロングコートを大きく揺らす。
その肩に担がれていたのは、巨大な兵装だった。
鈍い銀色の砲身。
幾重にも走る赤いコードライン。
砲口の奥では、不気味な粒子光が脈動している。
「お、おいおい……」
ジロウが引きつった声を漏らす。
「あれ、街中で持ち歩いて大丈夫なのかよ……」
「ぜったい職質されるやつだよぉ……!」
トモが青ざめる。
リサは兵装を見上げ、冷静に言った。
「いや……職質する側が逃げるんじゃないか?」
そのときだった。
ギィィィ……。
修正者の肩に担がれた兵装が、低い駆動音を響かせた。
「……?」
ユカが首を傾げる。
次の瞬間、砲身が中央から分割された。
ガコン。
「ひゃっ!?」
トモが飛び退く。
金属装甲が、まるで生き物のように動き始めた。
ガガガガガ……!
長大な砲身が折り畳まれ、複数の装甲板が左右へ滑っていく。
赤いコードラインは次々と黒へ沈み、内部の機構が組み替えられていった。
やがて、重い駆動音とともに変形が完了する。
修正者の背に残ったのは、巨大な黒い棺だった。
「……は?」
ジロウが呆然と呟く。
「変形した……?」
棺の表面には、無数のロック機構が並んでいる。
中央では、赤い紋章が淡く点滅していた。
それは武器というより、処刑具に近かった。
「……なんか、すごく嫌な感じがする……」
ユカがカイの服の裾を掴む。
修正者は振り返らなかった。
「AI殲滅兵装」
低い声が、夜の路地に響く。
「通常時は、封棺形態で携行する」
「……棺、ね」
カイが呟く。
修正者は黒い棺を背負ったまま、前を向いていた。
「理解不能なものを、理解できる形へ固定する」
夜風が吹き抜ける。
「それが、“修正”だ」
ギィ……。
黒い棺のロック機構が、呼吸するように脈動した。
修正者は再び歩き出す。
黒い棺を背負ったその姿は、死者を弔う墓守のようだった。
カイは、その後ろを歩きながら考える。
まるで葬式行列だ。
いや。
実際に、葬式なのかもしれない。
弔われているのは、ユナだ。
「ユナ……」
彼女が消滅した瞬間を思い出す。
ユナは光の粒子となって消えた。
遺体は残っていない。
それでも、今吹いている夜風と、修正者が背負う黒い棺からは、確かな死の気配が漂っていた。
「あの修正者……」
後ろからジロウの声が聞こえる。
「絶対ヤバい組織のやつだろ……」
「今さら!?」
トモが叫ぶ。
リサだけは、妙に楽しそうに笑っていた。
「ふふっ……ますます面白くなってきたじゃないか」
やがて一行は、ひとつの店の前にたどり着いた。
《Analog Mind Café》。
かつて温かな灯りをこぼしていた看板は外され、窓ガラスには色褪せた「CLOSED」の張り紙が残っている。
夜風が吹き抜けるたび、閉ざされた扉のベルがかすかに揺れた。
修正者は立ち止まらず、黒い棺を背負ったまま店内へ入っていく。
カイは足を止め、薄暗い店内を見つめた。
「……なんで、ここに」
「ここって……?」
ユカが不安そうに尋ねる。
カイは、かつてユナが立っていたカウンターを見つめた。
「ユナの店だ」
ユカの目が、小さく見開かれた。
※作者の活動報告に各話のコメントを書いています。
https://syosetu.com/userblog/list/




